ある村の小さな一歩

砂葉(saha/sunaba)

ある村で

 「…ねぇ……私さ…」

「ん?どうしたの?」

「……私さ!彼のこと好きなんだよね……」

「……は?」

この時私は彼女も私と同じ彼のことが好きだという事を知った。


 時は一時間前に遡る。

私は同じ小学校の友達と遊ぶ約束をした。

勿論、私の好きな彼もいて、私の大切な親友もいる。

私の村にはある決まり事がある。

「男子以外は神社に入ってはいけない。」

けれどみんなが遊ぶ場所はいつも神社だった。

男の子たちは私たちを置いて神社に行ってしまい、彼女と私は二人きりになった。

「ねぇ、みんないないことだし、秘密基地に行こうよ。」

「うんっ!」

秘密基地とは木の上だった。

そこは私たちのために作られたに違いない。

だって私たちが二人座るのにぴったりな大きさの枝があるのだから。

「勝負しようよ、どっちが後に上に登れるか。」

「いいよ。勝った方はアイス奢ってよね。」

「…いいよ。」

そう言って彼女はニヤリとした。

「よーい……ドン!」


 そこから世界一奇妙な戦いが始まった。

どちらもナマケモノの様に動き、枝を一本一本よいしょこらしょと言うかの様に登っているのだ。

通りかかった人がギョッとしたように見て、その後大笑いしたことは言うまでもない。

そのまま四十五分後、私は負けた。

かなり無駄な時間を過ごした。


 そして今に至る。

私はもう何を言えば良いのか分からなかった。

「あの…さ…私……彼を奪おうなんて…思ってないから…」

「……あっそ……」

「…あのさ!」

「……何?」

私はこの時、何か分厚い壁が二人の間を隔ててしまったような気がした。

「私…彼のこと…あんたが好きだって知らなかったの…でも、二人で見守っていきたいとおもっ…」

後ろを押されて私は落ちていく。

そこには薄ら笑いを浮かべた彼女がいた。


 私は………私……

あの子が憎い。


 落ちた私を無表情で見下ろす彼女を見た瞬間、胸の奥で何かが弾けた。

私の心でなにかが言った。

(復讐だ)

復讐だ。あの子に思い知らせてやろう。

今まで我慢してきた私の心を。この思いが尽きるまで。


 でも復讐とは具体的に何をすれば良いのだろう。

いや…そんなことは考えずにあの子が一番いやがることをしよう。

そこで私は考えた。

「あぁ……私…殺しちゃった……?……あぁ……彼には…どうか彼には知られませんように………神様……」

その言葉を彼女が言っているのを聞き思いついた。

(さあ!徐々に追い詰めていってやろう!まるで獲物を死に追い詰めていく毒のように!)

なんだかとても楽しくなってきた!


 彼女は木の上に私を隠して彼と一緒に家に帰った。

(ああ!腹立たしや!お前の好きな彼と帰っているぞ!それも何も起きなかったかのように話しながら!お前は先に帰ったことにされているぞ!)

ああ!とても苛つく!始めにどんな事からしてやるものか!

(上から彼らに血を垂らしてやったらどうだ?男は兎も角、女はガタガタ震えるぞ!)

そうか!そうしてみよう!

二人に血を…

ん?私の身体はここには無いのにどうやってアイツらに血をかけるのだろうか?

(念ずれば出てくるぞ、やってみるが良い!)

というかあなたは誰なのだろう。

(お主の先輩ぞ。ほれ、時間は刻一刻と迫ってきておる!)

本当だ彼と彼女はもう別れようとしている。

二人の間に血を一滴、

ポタリ

「うわっ、なんだこれ……血?……お前、どこか怪我してるのか?」

「っ!……ううん…大丈夫…ちょっと手を擦りむいちゃっただけ…」

彼女の服に血の手形を、

ベタリ

「ひっ!……お前…一体……なんで……」

「え?……ひっ……いや…ちょっとね………」

「お前……」

「私、用事あるしもう帰るね!」

「あ、おい!」

(帰ったぞ!追え!追え!)

あ……追って……復讐を…しなきゃ……


 彼女の家は周りの家より豪華だった。

それもそのはず、彼女の父親は社長なのだから。

その父親も苦しめてやろうかなぁ…?

いや、目的を達成するんだ。

(その通り、はやくアイツに恐怖を与えるべきなんだ。)

私は急いで彼女の部屋に向かった。


 彼女は机に向かって何かをしていた。

(何をしているか見て、それを台無しにしてやれ。きっと楽しいだろうぞ。)

私は彼女の手元を覗き込んだ。

そこには手紙があり、内容はこのようなものだった。

「私は、親友だった子を木の上から落として殺しました。そしてその後、不可解な事がいくつも起こり、私は彼女の殺してしまった事をとても悔んでいます。なので私はせめて自殺をする事で罪を償いたいと思います。こんな私を許してください。」

………は?そんなの……

(許せない!阻止しようではないか!そしたらコイツはもっと恐怖を与えてやれるぞ!)

そう!私はこいつが許せない!楽になって罪から逃げようとしているこいつが!


 こいつは首を吊るらしい。天井から吊り下がる照明を外し、今は縄を自分の首にくぐらせ結んでいる。

(さて、どのようにして阻止するのか?)

う〜ん……吊っている途中に鋏で縄を切ってみたら上手くいくんじゃないかなぁ……

(遺書はどうする?血で汚し、読めない様にしてしまおうぞ。)

うん、この計画で良さそうだ。


 「え〜っと…鋏鋏……」

(机の上にさっき自分で置いていたぞ。)

あ……

「いっけね〜、テヘペロッ!」

あ…呆れられた気がする……

(もうすぐアイツが吊り上げ始めるんじゃ無いか?)


 部屋に戻るとそいつは首を吊っていて意識も無かった。

(はやく、助けなければ!)

はやく、ながく、苦しめなければ!

私は持っている鋏でそいつを縛る縄を断ち切る。

(よし!次は遺書を!)

遺書よ、手紙よ、血に染まれ……

遺書は端からじわじわと血に染まっていく。

「………っ!」

(気が付いたようだぞ、次は何をするのだ?)

続きは明日にしようかなぁ……疲れた…

こいつは恐怖で自殺する事を忘れたらしい。

いやいや、できるだけ頑張ろう!


 その後もそいつが怖がることをした。

例えばお風呂の鏡に「私はココだよ。呪ってあげるわ。」って書いたり、バスタオルに血をぶっかけたり。物凄く震えていてとても面白かった。

が、何かが足りない。明日の朝、吃驚するよう、アイツの制服にも血の手形をつけてやったがまだ何か満足しない。


 「うわぁぁ!!」

え?え?何?ナニ?

其処には悲鳴を上げて佇むアイツが居た。

その顔は恐怖に歪んでいて、脚はガクガクしていた。

(見ロ!お前の望んでいた反応だぞ!)

……いや……何かが……足りない………

(何が足りないというのだ!これ以上無い恐怖ダゾ!)

………これが…?……私の望んでいたこと………?

もっと……もっともっと……コイツの苦しむところが…見たい……


 アイツは予備の制服を着ていた。

綺麗で…羨ましい…私とは大違いだ……

憎い……憎い……

まぁいい。これからコイツはもっと苦しむ事になるのだから。

学校ではコイツの噂で持ちきりだろうよ、なぜならコイツの好きなアイツは口がとても軽いから……

あいつ……?

まぁいいか……


 教室に着いたらしい……中はいつもよりざわざわしている。

「ねぇあの子……」

「そうだよ……服に手形が浮かび上がってきた子……」

「呪われてるんじゃないの……?」

アイツの姿をコイツは探しているらしい……

だが、居ない。

いきなりコイツは走り出した。何処へ向かうつもりだ……?


 此処は……

神社の前に来た。

私の死体がある所だ。

アイツは木の上に登っている。わたしもアイツのところへ行こう。


 あいつは泣いていた。私の目の前で、私の死体を向いて。

(ドウセ演技ナンダ、気ニセズ、オマエト同ジ方法デ殺シテヤレ!)

彼女はこう言っていた。

「ごめんね……ごめん……」

……違う……私が求めるのは……違う……

なのに頬を何かが伝っているのを感じる。

ソレが彼女の首筋に当たる。

彼女ははっとしたように私の方を振り向いた。

「……殺しちゃって……ごめんなさい……」

………謝らないで欲しかった……私の行動は……今までの感情は……何だったんだ……分からなくなっちゃうから……

「……あなたの想いは……私が引き継いで……これからも彼を………愛すから………」

……何故……コイツは……

(ホラ、コイツノ狙イハ始メカラ決マッテイタンダ。)

「だから……許して……」

腑が煮えくり返る……今の状態はまさにソレだ。

もういい……コイツは殺してやる………ぐちゃぐちゃに轢き殺してやる……

ならば踏切へ……


 ソイツの手を引き、私は踏切へ向かった。

「え?何?やめて!お願い!お願いします!やめて下さい!」

何処にいくかソイツにもわかったらしい。

だが止まらない。止まるわけがない。

報いを受けろ。


 カァンカァンカァンカァン!

電車がもうすぐ来るらしい。

「お願いです……やめて下さい……何でもします……」

ならばシネ。

私はソイツの手わ握り締め、踏切の中に入る。

「嫌…嫌……嫌っ……いやぁぁぁっ!!!」

「お前なんて生まれてこなければ良かったんだよ?分かるね?」

「いやぁぁ!誰かっ……助けて!誰っ…」

叫び過ぎてソイツの喉は裂けてしまったらしい。

「バイバーイ」

パァーッ

そんな音を残し、電車はアイツの上半身を手土産に走って行った。


 「さて…と…」

することが無くなってしまった。

(………ヤッテシマッタナ………)

………そうだ!

他の人が居るじゃないか!ソイツらで遊んでいけば良いんだ!

今までの思いをぶつけてやれば良いんだ!

そして私は何かへの第一歩を踏み出したのであった。



 「なぁ知ってるか?この町って出るらしいぞ…」

「え?嘘でしょ?やめてよ冗談は……」

「それが冗談じゃないんだよなぁ……先輩も見たらしいぜ……」

「え?……な…何を…?」

「この町に居る、幽霊とテケテケが……俺らのクラスの子を襲うのを……!」

「……え…?……もしかして……あの子……?」

「…………」

「ねぇ、急に黙ってどうしたの?」

「……お……おい………あれ………」

「何〜?…ヒッ……」

「で……でた……テケテケと……幽霊……!……」

「え!?あ……死……」

ソイツらは私を殺す瞬間、笑っていた。

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ある村の小さな一歩 砂葉(saha/sunaba) @hiyuna39

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