少女が美少女になるまで

時坂咲都

はじめてメイク

 くるんとカールしたまつげに、黒目の上だけに引かれたアイライン。ぷるんとした唇は、ほんのりと赤く色づいている。

 もしかして、お化粧してる……?

 明日菜あすなは、隣の席の子と話している星花せいかをまじまじと見つめた。

「ああ、ごめんごめん。アス、どうしたの?」

 くるっと星花が振り向いたので、明日菜はドキマギして言う。

「いえ、あの……お化粧してるんだなって……あ、あの、べつにとがめるつもりはなくてっ……その、大人っぽくていいなって……」

 化粧といってもほんのささやかなもの。なのに、勝手にじろじろ見てしまった。明日菜は言い終わった瞬間、後悔して頭を抱えた。悪気はなかったが、もし星花が気を悪くしたらどう謝ろうか。

 明日菜がチラッと星花を見ると、彼女はふふ、と笑っていた。

「なに、アスも興味あるの? ただの学校メイクだよ」

 ビューラーでまつ毛あげて、こっそりアイライン引いて、リップ塗るだけだよー、と星花は軽く説明した。その慣れた言い方が、明日菜にはとても大人びて聞こえた。

「……やってあげよっか?」

「え、いいんですか?」

 まだメイクなんて早いと思っていたから、ちょっとドキドキする。だけど、好奇心には勝てない。お願いします、と頼むと、星花はポーチからメイク道具を取り出し、ちょちょいっとやってくれた。まつげをくるんとカールさせ、アイラインで黒目を強調するだけで、目元がパッと華やかになった。ほんのり色づく桜色のリップで顔色もよく見える。

「ま、明日菜はもともとかわいいし、あんまり変わり映えしないかもね」

 明日菜はそんなことないと首を振る。

 ――少しの手間で、こんなに変わるなんて。お化粧って、すごいです!

「せーちゃん、よければもっとメイクを教えてくれませんか?」

 手鏡から顔を上げ、柔らかい笑顔で明日菜が言う。星花もニコッと笑ってうなずいた。

「いいよ。今度、一緒にコスメ買いに行こ」

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