第34話 あいつらだけは許さない~ブラック視点~
王宮に向かうと、既に主要メンバーが集まっていた。我が国では貴族が犯罪を犯した場合、侯爵以上の貴族が集まり、貴族裁判が行われるのだ。
「遅くなり申し訳ございません」
急いで父上の隣に座った。本来であれば爵位を受け継いでいない俺は裁判には参加することが出来ないのだが、特別に参加させてもらう事になった。
「それでは第1回パラスティ伯爵及びその家族に関する裁判を行う。裁判は今日と明日の2回を予定している。それではまず、バラスティ伯爵及びその家族の罪状について読み上げていく事にしよう。それじゃあ頼む」
陛下の専属執事が、罪状について読み上げていく。罪状にはユリアに対する殺人罪(一度命を落としている事から、殺人罪が相当だという事になった)及び治癒魔法の強要罪、暴行罪などなどがあげられた。さらに元伯爵夫妻に対する殺人罪も罪に加わった。
他にもユリアを使って儲けたお金を国に申請していなかった、脱税罪や、メイドに対する殺人罪についても読み上げられる。
「これは極刑で決まりですな…」
近くに座っていた侯爵が、ぽそりと呟いた。そもそも爵位争いによる殺人罪は、この国でも重罪の一つ。発覚すれば一族全員の処刑は確定だ。自分が伯爵になりたいが為に兄夫婦(元伯爵夫妻)を殺害した時点で、こいつらの極刑は決まったも同然。
「そうですな。極刑以外の罪は考えられません。今日裁判に参加していない伯爵以下の貴族たちからも、かなり動揺の声が上がっております。それにしても、姪でもあるユリア嬢にあそこまで酷い仕打ちをするだなんて。同じ人間とは思えない」
「私はユリア嬢を直接見た事がないが、息子の話だと髪は白く老人の様になっていたとの事。可哀そうに、15歳と言えば、友人や恋人と楽しく過ごす時期なのに…」
「娘も言っておりました。ただ、ずっとブラック殿が支えていらしたようですね。ブラック殿、私たちに出来ることがあれば、何でも言ってください。協力いたします」
温かい言葉を掛けてくれる貴族たち。
「ありがとうございます。それでは1つお願いがあります。伯爵家一族ですが、俺はどうしてもあいつらを許すことが出来ません。彼らは7年以上もの間、ユリアに地獄のような苦しみを味合わせて来たのです。ですから、彼らにも同じ苦しみを味わってほしいと考えているのです」
「ブラック殿、それは一体どういう…」
「彼らには7年かけ、治癒魔法と同様の、魔力の提供をしてもらおうと思っています。もちろん、ユリアが受けたと同じ、月に1回のペースで。彼らの魔力は今後魔力で苦しむ人たちへの提供と、魔術師たちの研究に活用するつもりでいます。さすがにやりすぎではという意見もあるかもしれません。しかし私は…ここ数ヶ月ずっとユリアの傍にいました。余命わずかと理解していたユリアは、残り少ない時間を必死に生きていました。自分の運命を受け入れるかのように…」
ユリアの事を考え、目に涙が浮かぶ。こんな大勢の前で泣く訳にはいかない。必死に涙を堪えた。
「彼女はある日突然両親を奪われ、そして厄介者として酷い虐待を受けてきました。もちろん、ユリアには何の落ち度もありません。誰もが絶句する様な酷い環境の中、彼女は必死に笑顔で生きて来たのです。彼女の事を思うと、彼らをあっさり死なせておしまいという事には、どうしてもできないのです。せめて誰かの役に立って死んで行って欲しい、ユリアが沢山の人たちを助けた様に…私はそう思っているのです」
ダメだ、涙が溢れそうになる!そっとハンカチで涙を拭いた。そう、ユリアが死ぬ直前、俺の為に作ってくれた大切な刺繍入りのハンカチだ。ユリアはどんな思いでこのハンカチに刺繍を入れていたのだろう。考えただけで、再び涙が溢れそうになる。
「今回の件は、我々王族はブラック殿の判断にゆだねようと思っている。罪もない人間に無理やり治癒魔法を使わせ、命を奪うという事はどれほど恐ろしく、罪深いかを、皆に知らしめると言う点でも、私はブラック殿の意見に賛成だ。ただ、他の貴族たちにも色々と考えがあるだろうから、明日の第2回貴族裁判までに、賛成か反対かを検討してきて欲しい。明日は被告たちも参加する予定だ。それでは、第1回貴族裁判を終了する」
陛下の言葉で、皆が次々と部屋から出て行った。俺の言いたい事は全て伝えた。きっと皆、俺の気持ちを分かってくれるはずだ。
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