第33話 ユリアはたくさんの人たちに愛されていたのだな~ブラック視点~

会議も終わり、屋敷に戻って来たのは既に日暮れだった。急いでユリアの元に向かう。相変わらず眠ったまま。


「ユリア、ただいま。今日は貴族たちに君の事を話したよ。皆君の味方だ。もう二度とユリアの様な悲劇的な運命を背負う令嬢が現れない様に、王太子殿下はもちろん、貴族たちが色々とアイデアを出してくれたよ。今我が国は、いい方向に向かっている。君が体を張って俺たちに教えてくれたんだ。この国はきっと、もっといい国になるよ。だからどうか、起きてくれ。皆君の事を心配しているよ」


ユリアに今日の出来事を話すが、相変わらず瞼は閉じたまま。このままユリアが目覚めなかったら…ついそんな事を考えてしまう。


「ユリア、もう二度と君に苦しい思いをさせたりしないよ。だからどうか、目覚めてくれ…俺はユリアの笑顔を見たくてたまらないよ」


ユリアに寄り添い、そっと呟く。ユリアは温かくて柔らかい。相変わらず髪は白いし、見た目はばあさんみたいだが、それでも彼女は美しい。


この日もユリアに寄り添い、眠りについたのだった。


翌日、第1回貴族裁判に参加するため、準備をする。そう、あのにっくき伯爵家を叩き潰すためには、裁判を開き最終的に刑を決める必要があるのだ。既に十分な証拠は集まっている為、彼らの有罪は免れない。もちろん、彼らを極刑に処すため、日々準備をしている。


ちなみに今伯爵家の面々は、王都にある犯罪者を収容するための監獄に収監されている。一応貴族という事もあり、独房に入れられていると聞いた。俺はまだ、あいつらに一度も会いに行っていない。きっとあいつらの顔を見たら、八つ裂きにしてしまうだろう。


とにかく裁判最終日にあいつらが出廷するまでは、彼らに会うつもりはない。


「ユリア、それじゃあ行ってくるね。君を苦しめたあいつらを、必ず裁くから。君が目覚めた時、安心して生活できるように進めているから、どうか安心して目を覚まして欲しい」


いつもの様にユリアのおでこに口づけをして、部屋から出ようとした時だった。


「坊ちゃま、ユリア様のご友人たちがいらしているのですが、どういたしましょう」


「ユリアの友人たちがかい?」


きっと昨日、父親にユリアの状況を聞いて飛んできたのだろう。俺は今から王宮に向かわないといけない。でも…


「すぐにこの部屋に案内いてやってくれ」


「かしこまりました」


使用人に連れられ、ユリアの友人たちがゆっくりとこの部屋に入って来た。


「ユリア!!何てことなの?可哀そうに」


「ユリア、しっかりして。目を覚まして。まさかこんなひどい目にあっていただなんて。助けてあげられなくて本当にごめんなさい」


令嬢たちが一斉にユリアを囲み、涙を流している。


「ブラック様、ユリアの容態はどうなのですか?父から伺ったのですが、ブラック様たちが治癒魔法を掛けたことで、一命を取り留めたと。私達の魔力も使ってください」


「どうかお願いします。私達にもユリアに治癒魔法を掛けさせてください!ユリアは私達の大切な友人なのです。お願いします」


令嬢たちが必死に頭を下げてくる。何度も言うが、治癒魔法は命を削る魔法。想像を絶する痛みを伴う、辛い魔法だ。それなのに彼女たちは、ユリアの為に治癒魔法を掛けたいと頼み込んでいるのだ。


ユリア、君は本当に皆に愛されているのだね…


「皆、ありがとう。気持ちは嬉しいのだが、ユリア自身が治癒魔法を拒んでいるのだよ…俺たちも何度か治癒魔法を掛けようとしたのだが、全くかからなくてね…」


「そんな…でも、ユリアらしいわ」


「そうね、あの子はいつも、周りの事ばかり考えて。きっとユリアの事だから、誰かに苦しい思いをさせたくないと考えたのでしょうね。治癒魔法の辛さを誰よりも知っているのは、ユリアだものね」


「ユリア、治癒魔法を拒むのなら、どうか目を覚まして。お願い、また一緒に学院に通いましょう。皆も待っているのよ」


ユリアに抱き付き、涙を流す友人達。


「いつまでも私が泣いていたら、ユリアが心配するわ。あの子、笑顔が好きだったでしょう。私達も笑顔でいましょう」


1人の友人が泣きながら必死に笑顔を作り、他の令嬢たちに訴えたのだ。


「そうね、ユリアはいつも笑顔だったものね。私達も、笑顔でいましょう」


そう言うと、令嬢たち皆、笑顔を作ったのだ。そして学院の事をユリアに話し出した。必死に笑顔を作り、話し掛ける令嬢たちを見ていたら、なんだか胸が苦しくなった。


ユリア、皆君が目覚めるのを待っているよ。だから…どうか目覚めて欲しい。


「坊ちゃま、そろそろお時間が迫っております」


「分かっている。ユリアの友人達、俺は出掛けないといけないが、どうかユリアとゆっくり話をして言ってくれ。それじゃあ、俺はこれで」


ユリアを囲み、話しに花を咲かせる友人たちに声を掛け、部屋から出たのだった。

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