第7話 ヴァックデーメ

 さて第一ボスを前に操作方法の確認。

 


☆基本操作



話しかける       ←↙↓↘→←↘←→◯

パンチ         □

キック         △

つかみ         ◯

防御          L1

回避          ✕

うなずく        R2

首を横に振る      L1 

移動          左スティックor十字キー

視点移動        右スティック

 


☆必殺技



ブラックダイナマイト  ↓↘↘→◯

ウルトラチョップキック ↓↓□△  

すごい投げ技      左スティック一回転◯



☆超必殺技



慚愧黒竜猛襲秋霖波   ←↙↓↘→←↘←→□

龍王鬼神乱舞拳2     →□←△→□↓◯□



☆ ☆



「今さらだけどさぁ……」僕は天使様に。「なんで3Dアクションなのに、コマンドが2Dアクションなの……?」

「嫌がらせ」


 明確な返答が返ってきたので逆に納得する。

 なるほど嫌がらせか。だったら仕方がない。


『じゃあ行くよ』画面上のマイルが屈伸をしてから、『お手並み拝見』


 マイルが無造作に歩み寄ってくる。

 僕はコントローラーを握りしめて相手の動きに注目する。


 間合いに入った瞬間、マイルの蹴りが顔に向かって飛んできた。僕はとっさに✕ボタンを押して回避。そして背後に回り込む。


 数回□ボタンを押してパンチを放ってみるが、


『やるね』マイルは主人公のパンチをあっさりかわして、『そこらの警官よりは強そうだ』


 それはこっちのセリフである。


 明らかに……このマイルは強い。こっちの攻撃に対する反応速度が尋常ではない。最初に戦う敵ではない。


 とにかく今は操作方法に慣れるのが先決だ。


 今度は僕から攻撃を仕掛けてみる。お返しとばかりに蹴りを繰り出すが、


『……なんかキミ……動きが硬いね』それは僕も思っている。カクカクしている。『基本に忠実、って感じ?』


 好意的に解釈してくれた。


 そう……この主人公、同じ動きしかできない。□を押したらまったく同じパンチが出る。△も同じである。寸分違わずまったく同じパンチやキックが出るのだ。


 もちろん連打したり、□と△を織り交ぜれば多少は緩急がつく。しかし……それにも限界がある。


 長期戦は不利だ。相手に情報収集されてしまう。


 ここは……必殺技でさっさとケリをつけよう。


 マイルを画面奥に見据えて、僕は必殺技【ブラックダイナマイト】を繰り出す。どうせこれも昔の僕が考えた技名だろうな。


『ヴァックデーメ!』


 突然叫ぶなビックリするから。なにかと思ったら……ブラックダイナマイト!と叫んだようだ。音質が悪くてまったく聞き取れない格ゲーあるあるを再現しなくていい。


 そして主人公は……


 突然マイルに対して90度横を向いて、虚空に向けて必殺技を繰り出した。特殊投げの一段目のような……当たったら必殺技が本格的に発動するタイプの技のようだった。

 ……


 なんでなにもないところに向けて放った?


『……?』マイルが怪訝そうに、『な、なに……なにしてんの?』


 僕が聞きたい。なんで主人公はマイルとは正反対の方向に技を出したんだ?


 気を取り直して、もう一発。


『ヴァックデーメ!』


 いちいち叫ばないとダメなの? スゲー恥ずかしいんだけど。今までの寡黙キャラどこいった?


 技はまた右の方向に出た。マイルは主人公に怯えの感情を抱いているようだった。


「な、なにこれ……?」僕は天使様に、「この主人公……なにしてるの?」

「必殺技のブラックダイナマイトだよ」知らんがな。「コマンド見てみな」


 言われて僕はコマンド表を確認する。


【ブラックダイナマイト】 ↓↘↘→◯


 この面倒くさいコマンドを2連続で成功させたことを褒めてほしい。なんで斜め下入力が2回も続くんだよ。不親切すぎるよ。


「これが……どうかしたの?」

「最後の入力が右でしょ?」

「……そうだけど……」そこでハッとする。「……まさか……最後の方向入力で主人公が右を向くから? だから右に出るの?」

「大正解」


 なんだその嫌がらせ仕様は……


 というか……他の技も同じ? 最後の矢印が下だったら画面の下にしか出ないの? ウルトラチョップキック下にしか出せないの? 左スティック一回転はどこに出るの?


 ……そういえば話しかける時も……変な方向に投げを出してたことがあったな……あれはそういうことか。右側にしか話しかけられないのか……


「……じゃあ、どうやって技を当てるの?」

「うまいこと視点を変更して、相手を画面の右側に誘導すればいいんだよ」


 ……


 あれ……? もしかしてこの世界は僕が最強の世界どころか……とんでもないハードモードな世界なんじゃないか?

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