Egoist 詩、評論文、短篇小説集

摂氏七十度

トイレ

髪をパーマにする前に、トイレへと行かなければ。


そう思って、私は柔らかいソファから立ち上がった。


視力の良く無い私は母親の呼び掛けで、遠くに在るトイレの標識に気が付いた。


其処へと向かって足を運ぶ。


夏休みで賑やかな往来の中を、欲望が進んで行く。


その標識のすぐ其処には、トイレは無かった。


曲がり角があり、その先に、又、トイレの標識が在った。


その曲がった道はソファが幾分か設置をしてあり、家族だろうか、アベックだろうか、動いている。


会話による、他人との接触の快楽、異性と接触する性的快楽。


その中を私は尿意という不快感を抑えながら、足を未だ、運ぶのだ。


その標識に近付くと、其処にはトイレは未だ、無かった。


又、曲がり角で在る。


その奥に、トイレの標識が、又、見える。


今度はどんな道であろう。


強面の中国人が、話している。


子供に話している。


一瞬、崩れて見えたその景色は、合法の風景に落とし込んでも、大して、抵抗の無い物で在った。


性的な誘拐かと思ってた自分をどう考えるか。


尿意は未だ、在る。


そして、其処はトイレで在った。


トイレに入る時、若い男性と肩が打つかりそうに成った。


若い男性は「すみません。」と言った。


私も、脊髄反射で、「すみません。」と言った。


排泄欲を満たした者と、満たして居ない者の、違いは其処には無かったので在る。


私は小便器に立ち、モノを弄り出して、小便をした。


気持ちが良い。


次に、大便器に行くも、大便は出なかった。


気持ちが良い?


トイレから出ると、先ほど迄のソファへの帰途を忘れてしまった。


さあ、どう帰ろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る