四十三夜目 五年ぶりのメッセージ

 二〇一九年七月の話。

 ケアマネの法定研修に向かう途中でふとスマホを見ると、ある通知が入っていることに気づいた。


『○○○○さんからメッセージが届きました』


 思わず足が止まった。

 私はフェイスブックのアカウントを持っている。

 実名でのアカウント。

 しかも私生活がだだ漏れのため、検索機能もかなりの制限をかけている。

 ただ持ってはいるが、更新は不定期。ここ最近はかなり放置していて、年に数回更新するくらいが関の山であった。


 そのフェイスブックのアカウントにメッセージが届いたのである。

 メッセージをくれた相手を見た途端、私は首を傾げた。

 急いでメッセージを開く。


『○○小、○○中でした!』


 メッセージの答えを見て、息を飲む。

 これは以前、私が送信したメッセージに対する答えだったのだ。

 私が出したメッセージは以下のとおりである。


『○○小と○○中学に通っていましたか?』


 二〇一四年に送信した記憶がある。

 しかも相手は私の初恋相手。

 五年以上経過して、小学校と中学校で片思いをしていた相手から返事をもらった――という事実に私は笑いがとまらなかった。


 ――なんで今やねん!


 フェイスブックをやったことがある人ならわかることかもしれない。実名登録が多いSNSだから、もしかしたら初恋のあの人や、昔付き合っていたあの人が登録しているかもしれないと検索をかけたのである。

 かけた結果、本人と思わしき人発見。

 友人と相談して、同窓会に来ない? と誘うきっかけができるかもしれないと、本人確認を兼ねて5年以上前にメッセージを送信していたのだ。

 そのときはまったく反応がなくて、ああ、きっと警戒されたのだ……と思って諦めていた。


 それなのに、なぜこのタイミングで返事が来たのか。


 ひとまず相手に返事をする。


『え? んじゃ、やっぱり○○くんなんだ? お久しぶり。お元気ですか?(笑)』

『お久しぶり! こちらは元気ですね! そちらはどうですか?』

『小中の頃とずいぶんと容姿は変わりましたよ! 中身はまったく変わってないですけどね! よければ友だち申請してもいいですか?』


 と、普通に会話を続ける。

 正直言うと、友だち申請してもいいですかと訊いたのはよくなかったかなあと思った。事実、五年以上も経ってからの返信だ。礼儀として返事はしたけど、友だち申請まではちょっと、と思うかもしれない。


 ところがである。


『はは(笑) 申請よろしくです。最近は見る専門になってますけどね』


 思ったよりもずっと気さくな回答で、私はふうっと息を吐いた。

 初恋相手ということもあって、妙に緊張する。


『あー。私もたまにしか利用してないですから、そこ同じです(笑) 返信ありがとう! 嬉しかったです!』


 きちんとお礼を述べてから、急いでフェイスブックを開いて検索をかける。

 しかし、こういうときに限って検索に引っかからない。


 ――なんでやねん!


 と思っているうちに、向こうが友だち申請してくれた。

 レスポンスが早すぎである。

 そしてまたメッセージが届く。


『こちらこそ! さあ、今日も1日がんばろー』


 なんだかとってもポジティブ。

 この五年で相手の心境にどんな変化があったのか。

 フェイスブックの写真を見る。

 片思いだった相手はといえば、やっぱり幼い頃の思い出の中の姿とはかなり変わってしまっていた。

 本人が言うように、髪はかなり薄くなってしまっていた。

 

 淡い思いを抱いたまま、現実を見ないほうがよかったかもしれない――なんてことは死んでも本人には伝えられないのだが。


 とりあえず、当時一緒にメッセージを送ったフィリピン在住の中学校の友人へメッセージを飛ばす。


『五年以上ぶりにメッセージ来るので笑いました(笑)』


 すぐに友人から返事が来る。


『ぼくも本人だとわかったんだけど、メッセージは来なかったよ』

『今日来たよ。友達になりました(笑)』


 友人、大笑い。


『なんか、めっちゃ明るい感じだったよー』

『友達にはなっておる』


 私の片思いの人の行動が謎に満ちる。

 なぜ、私には五年越しの友人申請で、フィリピンにいる友人には五年以上前に友だちになっているのか。

 なぜ、私にはメッセージをくれたのに、フィリピンにいる友人にはメッセージひとつ返してあげないのか。


  ――まあ、いっか。つながったし。


 今度メッセージのやりとりをする機会があったら、ぜひ訊いてみたいところである。

 が……こんなロマンティック展開があったというのに相手は既婚者であり、子供さんもいらっしゃる円満な家庭であることを知り……


 やはりドラマのようなロマンスは小説や漫画の中だけの話だなあとつくづく思ったのである。

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