第2話

 どうでもいい女どもの相手をしながら、彼の音を待っている。聞き逃しはしない。どんなときでも。彼の指の、ほんのわずかに擦れる音。鳴るというよりは、擦れて掠れるような。そんな音。彼みたいだと、思う。擦れて掠れて、鳴らない。燃えにくい薪のような、そんな人。だから、好きなのかもしれない。


 自分よりも掠れた人間に、会ったことはなかった。無駄に器量がよかったから。そのせいで、きたない仕事もこなした。血だらけの経歴だった。それをはずかしいと気にすることはないけど、他人よりも、優れた人生だとは思えなかった。


 同年代の女ども。ばかみたいにはしゃいでいる。キャンパスがどうとか、男がどうとか。節操がないし、若さだけを免罪符にして暴れている。ああいう、はずかしい人生のほうが。ましだと思う。少なくとも自分の、このつまらない人生よりは。


 彼の音を。待つ。

 彼には、わたしと同じものを感じる。生まれてはじめての、シンパシー。きっと彼の人生も、こうやって。どろどろだったはず。そう、勝手に決めつけて。勝手に愛して。ばからしいとは思うけど。彼はまぁ、たぶん許してくれる。


 だから、わたしを呼んで。はやく。その掠れた音で。

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