第二話 動物の寄合

 白蛇についていくと、原っぱに出た。寒々とした茶色い草が、月光に白く照らされている。


 月明かりの下に、様々な動物たちが輪になって集まっていた。

 サルやシカ、オオカミ、クマ、リスやトリなど、種々雑多な動物たちが、いっせいに白蛇の方を向いたかと思うと、頭を垂れた。

 

 白蛇は、堂々とした態度で這っていくと、輪になっている動物たちの真ん中へと進んでいった。黄平はどうしていいかわからず、輪の外で立ち尽くしていたが、白蛇が振り返って、目で「こっちにこい」と指示してきた。それで、黄平は意図を図りかねながらも輪の真ん中へと進んでいった。


 白蛇が連れてきた珍客に、動物たちはざわめき、あちこちから鳴き声や咆哮があがった。黄平はどぎまぎしながらも、事の様子を眺めていた。


「静かにしないか。これからお前たちの仲間になる者だ」


 白蛇がそう言葉を告げると、さらに騒がしくなった。

 一頭のオオカミが白蛇の言葉に答えた。


「ですが白蛇様。その者は鬼ではないですか。鬼を仲間にしようとはどのような了見ですか」


 他の動物も同じような疑問を抱いているようで、白蛇の答えを聞こうと、急に声を抑えだした。白蛇は動じることなく答えた。


「たしかにこの者は鬼ではあるが、悪い鬼ではない。悪さをできない故に、鬼たちから追放されここにやってきたものだ」


 白蛇の答えに、またもや一同は騒然とした。すると、一羽の小鳥が尋ねた。

「その鬼が悪くないとどうしていえましょう? 鬼はわたしたちを食べるばかりか、その命をもてあそぶようなことをするやつらです。そのために、隣の山から逃げて来た者もここにはいるのですよ」


 そう問われると、白蛇はじろりと周囲を見渡し、動物たちの顔をみやると、最後に黄平の顔をじっとみつめた。

「確かに、黄平が悪い鬼でないという証拠はない。というより、悪くないという証明など誰に対してもできるものではないだろう。だが、わたしはこの黄平の話しを聞いて、またその話しぶりをみて、この者が嘘をついていないと信じた。

 わたしを山の主と認めてくれるのならば、どうか私の信じたこの黄平を信じてはもらえないだろうか」


 思わぬ白蛇からの懇願に、騒然としていた場は静まり返った。

 そして、その静寂を誰でもない黄平が破った。

「俺が鬼だから、恐がるのも無理はねぇ。このでかい体も、このだみ声も怖いと思うのだろうが、俺は、他の鬼たちがやっているように弱い者たちをいじめたり、殺したり、物を盗んだりなんかしたくねぇんだ。それが嫌だから、鬼たちから追い出されてしまった。

 俺には行くあてがねぇ。もしここにいさせてもらえるのなら、俺はお前たちは食わない。代わりに木の実やきのこや、木の皮を食ったりして生きよう。約束する。お前たちに悪いことは俺はしない」


 ふたたび沈黙が訪れた。白蛇は黄平をみつめると、またぐるりと周囲を見渡して、

「そういうことだ。どうか黄平を信じてほしい。

 私がそのお願いをするのは、他にもお願いごとがあるからだ。私はこれから黄平にあることをお願いしようと思っている。そしてお前たちにも」


 一同は息をのんで、白蛇がなんというのか待ち構えた。緊張をはらんだ空気で胸がはりさけそうだった。

「私はこれから、この黄平に殺されようと思うのだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る