ひとりきり

街灯

第1話 バックミラー

「じゃあ私、買い物行ってくるから。…車の中で待ってなさい。」

ばたん、と大きな音がして、車のドアが閉まる。

(ああ、お母さん怒ってるなぁ…。)

どうせ荷物持ちにされるだけだから、と買い物の同行を断ったのが間違いだった。この後本屋に寄って買ってもらう予定の雑誌がお陀仏になってしまう。

「戻ってくる頃には機嫌直ってるといいんだけど…。」

シートを倒して横になる。


いつの間にか雨が降り始めていたので、ぱらぱらと音をたてて窓にぶつかる様子をぼんやり見つめる。

スマホを忘れてしまったのでする事が無い。

今月の雑誌の内容は何か、あと何分で雨は止むのか、母は今も怒っているのかと色々な事を考えていたら段々眠くなってきた。

瞼が重くなるのを感じる。でもこのまま眠るのもなんとなく癪だったのでなんとか起きようと体をねじらす。


ふと、バックミラーが目に入った。

後部座席に乗ってるからか、後ろの駐車マークまで見える。

地面に打ち付ける雨のせいで所々水溜まりが出来ていた。


じっとバックミラーを見つめていると、大きな丸がある事に気付いた。

後ろの窓に大きな丸いシールなんて貼ってたっけ。

そう疑問に思い、目を凝らしてみる。

上3分の1は黒く、下3分の2はベージュ。

凝視する事で、それがゆらゆら揺れている事に気付く。


頭だ。


車の後ろにべったりとくっつくように人がいる。

頭しか見えない程の低身長なのかわざと頭しか見えないようにしゃがんでいるのかわからないが、それは確かにこちらを凝視していた。

目が合う前にバックミラーから目を逸らす。

「…明日の時間割ってなんだっけ…。」

わざと関係の無い事を声に出す。

車内での呟きが外に漏れる訳無いのだが、自分の精神を保つにはそれに気付かないふりをして居なくなるのを祈るしか無いのだ。

「あー、眠い…。」

眠るふりをして目を細めバックミラーを覗き見る。


それは、いなくなっていた。

ほっとして目を開けようとした時、真横から

ごろん、とんとんとん…、とボールが転がるような音がして、私の足に当たった。

湿った皮膚が、



その後の事を実はあまり覚えていない。

覚えているのは、母が戻ってきた後も私は眠り続け、結局本屋に寄れなかった事だけだった。

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