032

「ねえ、こっちに行ってみようよ」

アオネは左の道を指さした。

「蛍がたくさんいるのはそっちじゃないよ」

青年は少し困ったような顔をして言った。

「少し寄り道してみるだけだよ」

アオネは左の道へと進んだ。何か、大切なものがあるような気がした。左の道に入ると、青白い光はますます強くなった。十数メートル進むと、そこは行き止まりで、少し通路が広く、部屋のようになっていた。天井も少し高く、まっすぐに立っても頭は天井をこすらなかった。

部屋の真ん中には重厚な飾りのついた豪奢な箱が鎮座していた。大昔の財宝を隠すような、金属でできた大きな箱だった。箱の中から光が漏れている。

「もしかして、埋蔵金か何か……?」

ひどく心臓が跳ねているのを感じる。アオネは震える足取りで箱に近づく。箱の蓋に手をかける。

「その箱を開けても何も変わらないよ」

青年が言った。

「この箱のことを知っていたの?」

「ここにあることはずっと前から知っていた」

「何が入ってるの?」

「わからない」

アオネは手に力を込めた。少し蓋が動いた。複雑な鍵はかかっていないようだった。さらに力を込める。全身から汗が噴き出してくるのを感じる。

「同じだよ」

青年は言う。半分ほどずらしたところで、自らの重みで蓋は外れて地面に落ちた。その瞬間、青白い光が洞窟中を照らした。目が眩む。

「また繰り返すだけ」

アオネの意識は遠のいていった。


051へ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る