その物件、もう掲載されていないそうです。
クロワッサン食べ実
これは私の友達Yさんから聞いた話です
これは私の友達Yさんから聞いた話です。
Yさんの妊娠が発覚したのは結婚して4年目のことでした。
子どもができたしそろそろ家でも買うかということになり、
今住んでいるところではなく、旦那さんの職場から通いやすい地域にある不動産屋を訪ねました。
担当してくれた営業の女性がとても親切で、
「お二人の年収からするとこれくらいの価格帯が一般的ですけど、でももう少し低いものでも良いと思いますよ。ローンのために働くよりも、旅行とかおいしいものを食べるために働いたほうが人生楽しいですからね。」
そう言って比較的安価な物件を紹介してくれたそうです。
他にも、当たり前のことなのかご厚意なのかはわかりませんが(私は家探しをしたことがないので)、その不動産屋が案内している物件以外でも見学できるよう手配をしてくれるそうで、Yさんは暇があれば大手不動産サイトで物件を探し、営業の方へメールで相談をしていました。
ある程度物件を見尽くし、あとは絞るだけの状態になった頃、
不動産サイトではなく検索エンジンで「〇〇〇(地名) 建売」と入力し
なんとなく検索をかけたそうです。
普段検索している不動産サイトがヒットしたのですが、
みたことのない物件でした。
毎日見ていたサイトですから、新しい物件はすぐにわかるそうで、
「更新されたのかな」と不動産サイトで検索をかけてみたのですが、
その物件は見つけることができませんでした。
「バグかな?」と思いながらクリックをして掲載内容を見ると、
築年数は10年以内と浅く、駅からも徒歩で20分以内。
外観は白を基調としたカントリー調に作られていて、ウッドデッキまでついていました。さらに、車を2台駐車できるスペースまであります。
「でも、お高いんでしょ~」と思いながら値段を確認すると、近隣で紹介されている建売物件の約半分の価格でした。
Yさん夫婦はちょうど週末に不動産屋に行くことになっていたため、
「急ですみませんがこの物件の見学は可能でしょうか」とメールしました。
「あー、、あれなんですけどね」
不動産屋につき、不動産屋の社用車ではなく席へ案内されたため「先日のメールの物件やっぱおかしい物件でしたか?」と聞いてみたところこう返ってきたそうです。続けて、
「ちょうど私の上司が近くに住んでいて聞いてみたんですけど、
結構入れ替わりのペースが速いみたいで何かあるっぽいんですよね。
夜中にパトカーが来ることもあるそうで」
「だからおすすめしません。」と、言われたこの話を、Yさんは会社の同僚に話したそうです。
お昼休みの時間で、食堂がない小さい会社に勤務していたYさんは同僚数人と自席で昼食をとっていました。
その話を聞いていた1人が「え、ひょっとしてなんだけど」と言って
「これは私の友達の話なんだけど、結構前だしちがうかもしれないんだけど」と続けて話し始めました。
◇
そのお友達はもともと向こうの義両親と同居していたそうで、
義父は認知症にかかっていて義母とお友達とその旦那さんとで義父のお世話をしていました。
不幸なことに義母が交通事故で亡くなっってしまい、それを機に義父を施設に預けたそうです。
義両親の家は結構田舎の方にあり、お友達とその旦那さんの職場から離れていたため今いる家を売って引っ越すことになりました。
引っ越しを決めてすぐに相場よりだいぶ安い物件をみつけることができ「不幸が続いたけど抜け出せたみたい!」と言って引っ越していきました。
けれど、その4か月後に退去したそうです。
お友達が引っ越して1か月がたったころ、お隣さんがインターフォンを鳴らし「これ、好きだと思って」と贈答用の箱に入った缶ビールを持ってきてくれたことがありました。
お友達と旦那さんが好きな銘柄のビールだったようで「私も旦那もこの銘柄好きなんですよ!わざわざありがとうございます。」と言うと、
「だと思った!これね、息子の嫁の実家から送られてきたんだけど、もうお酒飲めなくなっちゃって困ってたのよ。」
『だと思った』?とお友達は一瞬疑問に感じたものの、マイナーな銘柄ではなくスーパーやコンビニでよく目にするものだったためたまたまだろうと思ってその場はすぎました。
その数日後、今度は帰宅途中に少し離れた家の人から話しかけられました。
「ここに住んでどう?慣れた?困ったことはない?」
住民通しが顔見知りの今時珍しい地域なのかなと思いつつ「みなさん親切で住みやすいです。この前もお隣さんからビールをもらっちゃって。」
と返すと、
「あらそうなの。でもこの辺マクドナルドがないから不便でしょう?」
噛み合っているのかいないのかわからない返事が返ってきました。適当に「ぎりぎりデリバリーの範囲なので」と返すと「あらそうなの、それでなのね。」と言って去っていったそうです。
◇
「それでその友達はハッとしてね」
ゴミをあさられているかもしれないって気付いて警察に相談したんだけど、
ゴミをあさることは法的に罰することができないらしくて、
それで色々調べて、住居侵入罪とか窃盗罪に持っていこうとしたんだけどすぐには難しいみたいでね、
で、自治体にも相談してみようって旦那と話し合ってたら、またインターフォンが鳴って
怖いから居留守つかったんだけどドアの前に茶色い紙袋と手紙が置いてあって
「そろそろ役にたつと思います」って書かれた手紙と友達がいつも使ってるメーカーの生理用品が置いてあったんだって。
その物件、もう掲載されていないそうです。 クロワッサン食べ実 @croissantmushami
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