上を向いて歩いたところで

梅林 冬実

上を向いて歩いたところで

上を向いて歩いたところで

腹は減るし眠気も覚える

雨季が鎮まり

灼熱の太陽は腹を抱えて笑っている


紫陽花はあんなに美しかったのに

今は見る影もなく

薄茶に萎れた花びらを

花芯にようやっとくっつけて

落ちまいとする姿を目にするのが嫌だから

やはり上を向いて歩こうと思う


腹は減り

眠気を覚え

人を愛し

人に裏切られ

その腹いせに人を裏切り

余計に傷ついて

もう2度と誰も信ずるものかと

躍起になって前だけを見て歩いて

小石に躓いて

大袈裟なくらいに転んでしまって

膝を擦りむいて

地に付けた両手はじんじん痛んで

立ち上がろうとする姿が無様だと

人に笑われて


泣きたくないときに限って

涙が溢れてしまうのは何故なんだろう


馬鹿にするな笑うなあっちに行け

そんな風に肩肘を張って歩けば歩くほど

冷笑されるのは何故なんだろう


上を向いて歩いたところで

涙が枯れるわけじゃない

上を向いて歩いたところで

溢れる涙はどうせ零れる

とはいえ前を向くだけでは転んでしまうし

もうどうすりゃいいのと

膝を抱えたくなるけれど


それなら上も下も前も

右も左も見ながら歩けばいいさと

利口な人が澄んだ口笛とともに

すれ違いざま告げ知らせてくれる


ああ そうか

そうすりゃいいのか

君は賢いねぇ

思いつかなかったよ

抱えかけた膝をポンと打ち

再び歩きはじめる


上を向いて下を向いて

右を見て左を見て

前を向いて


知恵を授けてくれた人に

何ができるかを考えながら

ただひたすらに歩くのだ

そのうちびっくりするような

お返しができるかもしれないからね

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上を向いて歩いたところで 梅林 冬実 @umemomosakura333

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