第十三話 酢豚のパイナップル
うまなさんとイザーさんはお姫様と執事と言った関係なんだという事は何となく想像も出来るのだけれど、あの中華を食べていた時はイザーさんは隣に立ってい見ていただけだったと思うのだけれど、その時とは違って今は同じ食卓を囲んでいるという事が不思議に思えた。うまなさんが主人でイザーさんが執事という関係だったと思うのだけれど、それはあの時だけだったという事なのだろうか。
「どうしたんですか。ここの料理は口に合いませんでしたか?」
「そう言うわけではないんですが、うまなさんとイザーさんは一緒に食事をとってるというのが意外でして。ホテルで中華を食べてる時はイザーさんは食べてなかったと思ったんですけど」
「あの時はまさはる君が私の服装を執事にしちゃってうまなちゃんが悪乗りでその設定にしちゃったから仕方なくって感じだったんだよ。私も本当はあっちの世界の料理を食べたかったんだよね。こっちでも似たようなのは作ることが出来るんだけどさ、さすがに味までは真似できないからね。食べた事がない物を想像する事は出来ないってのは出来ないからね」
「そうは言うけどさ、イザーもカッコイイ執事になれて嬉しいって言ってたじゃない。男装もなかなか似合ってたと思うよ」
「まあ、私は何を着ても絵になるからね」
「絵を描くのはまさはるだけどな」
二人は楽しそうに笑ってるのだけれど、私にはそれの何が面白いのかわからなかった。同じく食卓を囲んでいる偽福島君はあきれたような顔で二人を見ていた。私はうまなさんとイザーさんの関係性以上に偽福島君がいったい何者なのかという事が気になっていた。なぜ福島君と同じ名前を使っているのか、そこが謎だったのだが、うまなさんが私をこの世界に連れてくる確率を少しでも上げようという考えだったのしたら、私はその作戦に綺麗に引っかかってしまったという事なのだろうか。
「そんなに中華を食べたいって思うんだったらさ、うまなに作ってもらえばいいじゃないか。前と違って今はちゃんと実物を食べたって事なんだし、味も想像じゃなくて本物をイメージ出来るって事だろ。お前が食べた料理を俺が描けばイザーだって同じものを食べることが出来るんじゃないか」
「それはそうなんだけど、うまなちゃんが作ったってのはちょっと引っかかるんだよな。私もあのレストランで美味しいご飯を食べてみたかったな」
「そんなワガママ言うんじゃありません。最初に私があの子をスカウトする役割をイザーに任せようとしたのに断わったのはあなたでしょ。私も本当は執事をやってみたかったんだからね」
「そうは言うけどさ、うまなちゃんは車の運転出来ないんだから執事なんて出来ないでしょ。それに、マナーとかも全然身についてないしうまなちゃんに執事は無理なんだよ」
「そんな事ないもん。福島まさはるがそういう設定を付け加えれば私だって何でも出来るもん。その気になれば指先から酢豚に入っていたパイナップルを出す能力だって手に入るんだからね」
「なんだよその能力。大体俺は料理に果物が入っているのは否定派なんだけどな」
「あら、でも結構おいしかったわよ。さっぱりしててお口直しにちょうどいいなって思ったし。でも、エビチリってやつも美味しかったわね。中華って辛いものが美味しいって印象になったかも」
最初はつまらなそうに食卓を囲んでいると思った偽福島君だったけど、案外この二人と一緒にいる生活を楽しんでいるのかもしれないね。私がこの三人の中に自然に溶け込めるようになるのはもう少し時間がかかりそうだけど、あの輪の中に入れたら楽しそうな予感はするな。私はあんな風に話すことが出来た友達って出来た事ないからね。
「あの、ご飯を食べてる時に聞く質問じゃないかもしれないですけど、中華の話を聞いてて思いだしたことがあるんで質問しても良いですか?」
「良いけど、あなたは酢豚に入ってるパイナップルは肯定するのかしら。それとも、否定しちゃうのかしら」
「あ、私は別にどっちでもいいって思ってます。入ってたら食べるだけですし、だからと言って人の分を奪ってまで食べようとは思ってないです」
「ち、違うわよ。あれはあなたの分まで奪おうとしたのではなくて、あなたが取り皿に取り分けないからいらないのかなと思って食べてみただけなのよ。ほら、こっちの世界ではあんな風に料理の果物を入れる習慣ってのが無いから気になっちゃったのよ。で、食べてみたら意外と美味しかったから驚いて、ね。そう言うわけだから、私はあなたの分まで奪おうと思ったわけじゃないって事なのよ」
「本当にそういうのはどうでもいいんですよ。私は別にそこまで酢豚にこだわりとかないですから。でも、だいぶ前にテレビで見た黒酢豚ってのは美味しそうだなって思って見てました」
「何その食べ物、ちょっと気になるわ。ねえ、福島まさはるは食べたことあるのかしら?」
「食べたことは無いけど見た事はあるな。でっかい肉の塊だけのやつだろ?」
「何それ、ちょっと興味あるかも。あのレストランにはなかったのかしら。あったなら食べてみたかったわ」
「たぶんだけど、お前らが行った中華レストランにあったと思うぞ。そっちのコースにしてたらパイナップルの入った酢豚じゃなかったと思うし。どっちが良いか選んでから行けばよかったのにな」
「そんなの今さら言われても遅いのよ。よし、もう一度あっちの世界に行って確かめてこないといけないわね」
「そうしたいのはやまやまなんですが、車のエネルギーが貯まるまで相当時間がかかると思いますよ。予備の車も飛行機も全部エネルギーが空なんだからね。うまなちゃんがいろんな世界の動物を見たいって言いださなかったら確かめに行けたのにね」
「そんなの今さら言っても仕方ないでしょ。それに、そのエネルギーを貯めるためにあなたを呼んだんだからね。これから期待しているわよ」
人から期待されたことなんて今まであったんだろうか。なんて思って見たけれど、私は期待に応えられるような人間じゃないんだよね。というか、酢豚ってそんなに重要なモノなのかな。私はそんなに酢豚が好きじゃないのでそんなに熱くなれるという事が不思議だった。
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