暗殺令嬢、ニージェ=カストル

石山 カイリ

悪役令嬢、ミージェ=カストル

 公立ステラフォール学園。

 乙女ゲームにして、鬱ゲーで有名な《ミルキー・ウェイ》というゲームの舞台となる学園です。

 時代背景は中世ヨーロッパ近くの魔法や、ドラゴン等がいるザ・ファンタジー世界。


 ゲームのストーリーは、貴族と平民が共に通うステラフォール学園に、入学した平民の主人公、ララが皇子に見初められ結婚すると言うのが、メインルート。

 その他、様々な攻略対象がいるが、長くなるので説明は省く。


  いずれのルートでもヒロイン、ララの前に立ちはだかる公爵令嬢にして、皇子の婚約者こそがこのわたくし、ミージェ=カストルですってよ!

 今日も性懲りもなく、愛おしい殿下を誑かす主人公、ララを苛めぬいてさいあげましたわ!


 そんな私の末路は、いずれのルートでも死。おぞましいものとして甦った私は、ララを殺そうと襲い掛かり、好感度一位のキャラがそれを庇い死亡。

 その後、最愛の人を失くし、疲弊仕切ったララを好感度二位のキャラが慰め、その後、結ばれる。


 そうして、全てヘイトがこの私、ミージェ=カストルに向かったままエンディングが終わり、エピローグ的な話で、実はミージェを操っていた教団がいたことが明かされるのです。

 要約すると、彼らは、人々の私に関する負の感情を媒介にして魔王を降臨させようとしていたらしい。


 そう、つまり、この私も被害者ってことですのよ! よくお分かりかしら?

 原因は、この左小指に嵌められている忌々しい《隷属の指輪》。これを嵌められているおかげで、私は自分の意思とは裏腹に、ララを苛めてしまいますの!


 そうした、エピローグストーリーもあって、憎みの対象であった私、ミージェ=カストルも憎めなくなるという点も、この《ミルキー・ウェイ》が鬱ゲーと言われる所以と、まあ、こんなところで良いでしょう!

 この世界で私がしたいことは、たった一つだけでしてよ!


 それは、あの方を現世に甦らせること……。その為だったら、私はゲーム通りの筋書きを辿ることも惜しまない!

 と、行けませんわね。つい、素が出てしまいましたわ。もうすぐ、夢にまでみたあの方が復活するというのに、ここでボロが出て、教団に怪しまれたら、今までの苦労が水の泡になってしまいますわ。


 気を張り詰め直さないと。

 教団が、魔王降臨の儀をするのは、私が二年の冬の舞踏会の日。

 つまり、明日。

 あぁ、ようやく……、ようやくあの方に、あの日救ってもらった恩が返せますわ……。


 そのようなことを頭の片隅で考えながら、私は部屋の外に聞こえるように、はしたなく憤慨しましてよ。

「いったい、何度言えば分かるのかしら! この女狐! 殿下に気安く話し掛けないで下さる!?」


「ご、ごめんなさい……!」

 相手も私にいつものように、合わせてくださり、声を張り上げてくれましたわ。

 ここは、生徒会の部室で、今は相手と私しかいないですけど、だからこその外へのアピールは必須ですの。


 本当に伝えたいことは、こうして紙に書いて、相手に伝えますの。

「謝ってすむことではなくってよ!(今日のお昼休みは本当にごめんなさい! 手をヒールで踏んづけちゃって、痛かったですよね)」


「申し訳ありません!(いいえ、治癒魔法を使えるので、あんなのどうってことないわ。それに、あたしはあなたに協力することに決めた時から、こうなることを了承済みだから! 気にしないで)」

「そう言うところを言ってますのよ!!(そ、でも、例え私の目的に協力してくれてるにしても、今日のお昼のことはやりすぎだったわ。お詫びと言ったらあれだけど、カップケーキを焼いてきたの。良かったら)」


(わーい。あなたのケーキ、本当に美味しいの)

(そ、じゃ、好きなの取って)

(食べさせてください)

「はぁ!? あ、あなた何を言って!?」

「申し訳ありません! でも、自分の気持ちにこれ以上嘘を付くことはしたくないんです!(だってー、あなたに踏まれた手が痛くて……)」


「嘘、おっしゃい!! だって、貴方さっき……!」

(そんなに感情的になったらボロが出ちゃいますよ? ミージェ様)

 小悪魔めいた笑みで、文字を見せるのは、三人の協力者のうちの一人にして、このゲームの主人公のララ。


 可愛らしい顔立ちに桜色の瞳とパステルパープルの短い髪、そこに大量の優しさと若干のSっ気をアクセントで入れたら、ララという人物の完成。

 ん、要するに、この憎ったらしい小悪魔めいた笑みに、私が勝てるはずもないってこと!


 だって、万が一、ララの機嫌を損ねでもしたら、明日の作戦がおじゃんになりますもの。

 他の二人の協力者はこの際、どうとでもなりますが、ララが持つ聖女の力がないと私の目的が達成しませんもの……。


 というわけで、可愛らしい口を開けて待っているララに、私はケーキを突っ込みましたわ。もちろん一口サイズにフォークで切り取って……。

 当のララさんは、ご満悦そうに満面の笑みでケーキを堪能しながら、手を動かす。


(いよいよ、明日か……やっと、本物のミージェ=カストル様に会えるんだねー)

 ララの言う通り、私は本物ではない。

 本物のミージェ=カストル様はとっくに死んでいるのですもの……。

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