転 戦争編

第14話 決戦の刻迫る

「で、作戦は?」


 

 オレとサーラは横並びに立ち、強風に煽られながら門を見つめていた。まるで台風が近づいているかのような天候で、ゴミや枝が脇を飛んでいく。

 サーラが肩をすくめながらも楽しげに答えた。


「そんなのないわよ。門が開いたら、出てくるもの全てをやっつける。それだけ」

「ははっ、随分シンプルだな」


「まあね。でも」


 サーラは目を力強く輝かせる。



「貴方がいるならそれで十分」


 随分な自信だな、とオレはそれを横目に見る。それほどの力がオレに隠されているのか。


「そうか。まっ、覚えやすくていいか。で、あの大仏は?」

「門を押さえているみたい。よくは知らないけど、エクートで動く多分日本の兵器よ」

「へえー。で、どれくらい保つ?」

「二、三時間かな、今の状態なら。でも、第二王子がそれを悠長に待つとも思えないし、一時間くらいに思ってた方がいいかも」

「オッケー。ところで、随分評価してんだな、その第二王子って奴を」

「えぇ。彼に敗れているから。まるで西遊記の悟空と釈迦みたいに、手のひらで泳がされた感じだった」

「ふーん。そんな奴にオレは勝てるのか?」

「知力ならダメでしょうね。だけど、貴方には伝説級のエクートがあるでしょ?」

「…どうだろうな」

「貴方なら大丈夫。自分を信じて」


 そう言って、サーラが親指を立てて、とびっきりの笑顔を見せた。そこまで言われると、こっちもその気になってくる。


「オッケー。で、オレは何をすればいい?」

「そうね。まず、あの大仏も大分きつそうだから、貴方がエクートで強化したら一旦扉を開けてもらいましょう」

「オッケー」

「じゃ、お願い」

「ああ」


 それっきり二人の間に沈黙が降りた。しばらくしてから、オレはサーラの方を向いた。



「で、そのエクートってのはどうやって使うんだ?」

「え?」

「ん、聞こえなかったか?」

「いや…」

「エクートはどう使うんだ?」

「え?」

「もう一度言うわね。えっ?」

「いや、だからエクート…」


 サーラが手を広げてオレの言葉を制止した。そして、一方的に話す。


「ねぇ、貴方エクートを隠しているわけじゃないの?」

「ああ」

「はぁ?!」


 サーラは柄の悪い不良がガンをつけるようにオレを睨んだ。オレはロボットのように答える。


「使い方など知らんからな。あははは」

「嘘でしょ…」


 落胆し、青白い顔をしながらサーラが呪文みたいな何かを唱えて、センサーを起動する。少しして機械音声が事実を伝える。



〈全てのエクートの"変換器"が使用不可能となっています。例えるならば、錆び付いた鍵穴です〉


「そんな…嘘でしょ…」


 サーラが数歩下がって、尻餅ついた。オレは態とらしく大袈裟に聞いてみる。


「どうした!?まずいのか?」

「ワザとらしいわね!そういうところ、本当に性格悪いわね」

「えへっ。んで?」

「はぁ…まずいなんてものじゃないわよ…。貴方ただの人になっちゃってるのよ」

「へっ?」


 オレは頬を掻く。


「貴方はエクートを使えない。だから、何も出来ないし、仮にあっちに帰っても第一王子の地位だってもらえやしない」

「そうか…」


 オレは腕を組んで考えるフリをする。勿論何も考えられてはいないのだが。


「そりゃあ、大変なことになったな」

「もうなんなのよ!」

「うわっ、キレた」

「もう!なんで普段からエクート使っておかないのよ!そしたら、私が探すのも苦労しなかったし、こんな危機的場面も乗り切れたのにぃ!」


 サーラはオレの胸ぐらを掴んで怒った。オレも少しムカッとしてサーラに返す。


「いや、使い方知らないものを使える訳ないだろ。それにさ、オレ今何歳だと思う?」

「知らないわよ」

「44歳」

「へぇ。それが何?」

「遅くない?」

「えっ?」

「迎えにくるの」

「えっ?」

「なあ、オレの素朴な疑問伝えていいか?」

「どうぞ?」



「遅くない?迎えにくるの。オレもう44歳。人生折り返しなんですけど」




 そして、オレは思わず叫んだ。


「迎えに来るならもっと早く迎えに来いよ!」


 驚いたサーラが目をパチクリさせた後で、ため息を吐いた。


「う〜ん。それは…ごもっとも」


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