第13話 奴、来たる

 "クゥアンミの門"の正面五百㍍ほどの道路上にサーラはいた。門から風が噴き出して、サーラのスカートや髪を旗めかせる。


 先程の衝突音で少しだけ門が開きかけた時、そこに何らかのモンスターの角が見えた。多分ソイツが突っ込んできたのだ。そして、今も門を開けようと押している。おそらく第二王子の策だろう。あの兄のことだ。間者から情報を得ているか、はたまた感知したのか。いずれにせよ、物理的手段で開けられることに気付いて、その手を打ったのだろう。当然次策もあるだろうし、その先の想定もできているはず。


 だから、門が開くのも時間の問題。大仏が押し込めたから今は門が閉じているけれど。大仏のエクートもみるみる小さくなっているし、保って二三時間だろうか。



 門が開いたなら私がやるしかない。出てくるモンスターも正規軍も全部相手するしかない。

 色々考えてはみたけれど、何も思い付きはしなかった。この日本の科学力と判断力じゃ出来ることはない。核爆弾を数十発打ち込むなら別だけど、核もないし、国民も逃げてないし。

 色々考えて、「無理」と思う都度、頭に"彼"の存在が過った。もし、彼が居たのなら、と。



 でも、彼に頼ることはできない。そして、私の力でも多分どうにもならない。だから、最大限守るわ。この日本を。漫画の続きが読みたいもの。



 風が一層強く吹く。


 門がさっきよりも開いているのだ。傍目には分からないけれど、微妙に押し込まれてきているんだと思う。いよいよ、決戦の時が近づいてきた。私は深く深呼吸をして目を見開く。



 死ぬ覚悟はできたわ。




 そのとき、サーラの後ろで「ジャリ」と砂利を噛む音がした。サーラが振り返る。彼女の顔が驚きと、そして悦びに満ちていく。





「ど、どうして貴方が…?!」



 サーラの視線の先には、風に髪を靡かせながらやってくる一人の男の姿があった。




「なあに。ちっと野暮用でな…」






 頬を掻き、煙草を咥えてやってきたのは、あの男。









 神崎守。44歳素人童貞。

 かつて歴代最高のエクートを誇るといわれた男。

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