第8話 異世界…転生?

 時は少し遡る。


「"イルクート"反応感知!」


 内閣府国家公安委員会緊急事態対応本部の管制室でオペレーターの一人が叫んだ。すかさず釈迦由美子は叫んだ。"クゥアンミの門"は閉じたはずなのになぜ。


「どこ!?」

「葛飾区柴又です!」

「寅さんね」

「…トラさん?」

「何でもないわ!直ぐに最寄りの職員を向かわせなさい!」

「無理です!交通網が麻痺して進めません」

「チッ。なら、走らせなさい!なるべく早く。見つけ出して捕えなさい!奴らの情報を吐かせるわ」


〈待ってください〉


 インカムで釈迦にそう呼び止めたのは、例の新聞を調査する担当だった。




〈僕が行きますよ〉

「なんですって?」


---


 ゴフッ。

 自然と口から血が溢れ出た。左肩から入った剣が左の乳首辺りまで来ている。信じられないが、どうやら斬られたようだ。



 まだ現実だと受け入れられないからか、痛みより熱いと感じ、血が身体を伝う"ぬくもり"に少しだけ安心感を覚えた。


 しかし、一番驚いているのは切った張本人の少年だった。同級生を刺してしまった高校生のような顔をしている。


「な…なんで。アンタ…"エクート"使わないんだ」



 馬鹿野郎、使えねえんだよ。そう言いたかったがオレは返答もできぬまま、意識を失った。そして、深い闇の底に飲み込まれたのだった。


---


「オギャア、オギャア」


 真っ暗闇の中、オレは泣き声を上げていた。誰かがオレに触れる。こわっ。暗闇の中で誰かに触れられると物凄く怖いな。赤ん坊とはこんな気持ちなのか。




 そう、どうやらオレは異世界転生をしたらしい。婆さんやタマを看取るという夢は叶わなかったようだ。しかし、せめてその世界の神様に会ってスキル付与とかそういう分かりやすい出来事が欲しかった。いきなり赤ん坊になってるなんて、訳わからんって。



 あー、なんだか眠くなってきた。そして、また意識が遠のく。



 今度意識が戻ったときには、目の前に朧げに誰かがいるのが見えた。直感的に母親だと分かった。視線のほとんどを茶色い床が占めている。どうやら母親に向かってハイハイしているらしい。



 そして、また視線が隅から暗闇に覆われていく。意識を失くした。



 瞬きをすると、今度は少し視線が上がって、物が多少なり見えるようになっていた。オレは何かに棒のような物に捕まって立っているようだ。多分生後八ヶ月くらいだろうか。足元は覚束ず、力が入らない。

 その側で母親がオレを応援しているようだった、なんと言っているかは認識出来ないが。



 そして、オレは気付いた。


 ああ、そうか。



 これは異世界転生ではない。



 異世界にいた頃の"記憶"だ。




 つまり、走馬灯。



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