七、謎の部屋


 す、と中にいる人に極力気づかれないように障子を開くと、そこはまさに殺風景の真骨頂のような状態であった。床にはめった切りにされたよくわからない草や、紐が散乱している。こちらに背を向けて部屋の中心に座り込んでいるのは清貴であった。



 「清貴....さん?」


 思わず声を出して確認してしまった。


  何やらもぞもぞとと手を動かしていた清貴は、私の声を聞いてピタリと動きを止めた。それから恐る恐る頭をぐぐっとこちらに向けてくる。清貴は数秒私を見て固まっていたが、



「出ていけ。今....すぐに」


、と息も絶え絶えに凄まれた。


私の体は出ていくどころか凍りついて動けなくなり、まるで何かに縛られたかのようである。


何も出来ずにその場に呆然と留まっていると、「葵さん...?」という富貴の声が聞こえた。



「清貴兄さん、葵さんに一体何をしたんですか?」


 少し怒った口調で富貴が言う。


 ・・・私のために怒ってくれている。


 胸が温かくなる。だけど、その温かさは私の凍った背を溶かしてはくれなかった。


 「....別に....」


 そう言ってふいっと清貴は視線を逸らす。


 兄に向かってハァ、と盛大な溜め息をついた富貴は立ちすくんで動けない私の手をいささか乱暴に掴んで部屋から引きずり出すと、ピシャリと障子を閉めた。


 「あ、あのっ。富貴さ....」


やっとのことで絞り出した声は、富貴によって遮られた。



 「葵さん、あんなところへ入ろうとするなんて....何てことを考えてんや」



 「....っ....ご、ごめんなさい....」



思ったよりも静かな富貴の声は、私の胸を突き刺した。


 「ハァ、まったく....。怪我はないん?何もされてへんか?



 「なにもされてへん、ってなしてそこまで?」



 数秒の沈黙の後、富貴は、



 「あ。母上が来ますよ。早くしないと叱られます」



 と、こちらに向かってくる紫を指差して歩き始めた。



 「富貴さんっ‼️」


 ──濁すなっっ‼️──っという不満一杯に富貴を睨み付けると、


 「今はダメです。夜なら譲歩しましょう」


 と小声で言うと、今度こそ紫の方へ歩き始めた。



 「葵さんに何かあったの?」


 「いえね。道に迷ってただけですよ」


 こんな話し声が聞こえる。どうやら富貴は紫に言うつもりはないそうだ。


 ハァ、と一つため息をついてから葵は満面の笑みを浮かべながら二人の方へ駆けていった。勿論、その腕にはハクも乗せて。



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こんにちは。椛風月です。お手数をお掛け致しいますが作者の不調のため次回の更新日がいつになるか分かりません。何卒宜しくお願い致します。

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