富士の下で

椛 風月

序章



 「逃げなさい。誰にも捕まらぬように。私のことは考えぬように。必ずや逃げよ」



 毎晩この夢を見てしまう。母の言葉だ。


 最近の出来事のはずなのに、もう何年も前の出来事に思える。私は意味がわからず、母の許に行こうとしたが、父が私を捕まえて背負って、走って、走って、走った。

 

 いくらもがいても同じだった。



 なぜこんなことになったのか分からない。でも、変事があったのは間違いなかった。

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