第六話 慌ただしい八十敷
翌日、
「
「まだ食事が……。」
とあたしは渋ったが、
人前で手をつなぐなんて、親子連れか、
きゃあ───、と女官たちが色めきたち、あたしは恥ずかしさで真っ赤になった。
「ちょっと!」
「鎌売……。噂を聞いた。昨日の宵、広瀬さまの……。」
と訊いてきた。
「だったら何? あたしは女官よ。こういった事も承知の上でしょう? それとも婚姻はやめる? 」
「鎌売、鎌売……。」
八十敷は視線を下げ、苦しそうに顔を歪め、名前を読んだ。
「婚姻はやめるの、と訊いたのよ。」
あたしが重ねて言うと、八十敷は、はっとしたように顔を上げ、
「やめない。」
と急いで言った。
「そう。言っておくけど、広瀬さまは、ただあたしの思い出話が聞きたかっただけで、あたしには指一本触れてないわ。」
「………。」
「わかったら、こんな風に連れ出した事を謝罪して。」
八十敷は
「す、すまなかった。
でもよ……、鎌売。あり
鎌売、おまえはオレのことを、どのように思っているんだ?
おまえのなかには、オレへの想いは……。」
八十敷があたしの手を握ろうとした。
あたしはそれを許さず、八十敷の広い額を、素早く、びしっ、と打ってやった。
「くどくどしい
いつまで? まだまだです!
あまり
明日から四日間、あたしは休みです。
この
「かっ、鎌売……!」
「温情をあげるわ。
午二つの刻(午後1時)。
場所はわかるわね?
そのまま、一緒に市歩きをしてあげても良いわ。あなたも休みを取れれば、だけど……。」
話の途中で蒼白になっていた八十敷は、ぱあっと笑顔になり、最後の、休みを取れれば、の言葉でオロオロと慌てだした。
「場所はわかる。
明日から四日間、午二つの刻に、迎えに行く。
必ず!
四日間全部、市歩きにつきあってもらうからな! たたら
「たたら濃き日をや。」
八十敷は挨拶もそこそこに、慌ただしく走り去っていったので、あたしは、
「言い
と
───鎌売、おまえは、オレのことを、どのように思っているんだ?
おまえのなかには、オレへの想いは……。
ちゃんと、二十歳になったら婚姻する相手だって認識してるわ、と言うつもりだったのに。
「ん……。」
そう。あなたのことは、婚姻する相手だって……。
何故だか、頬に熱がたまる。
あまりに熱いので、そっと頬を両手で包んでみた。
本当に熱い。
「ふふ……。」
八十敷の、真剣な顔、蒼白な顔、慌てた顔。
思い返しても、面白い。
明日の市歩きでは、どんな顔を見せてくれるのか。
きっと、優しい笑顔で、あたしを見てくれるに違いない。
「んー!」
あたしは、ぱしっ、と両頬を軽くはたいた。
物思いは、ここまで。
さっさと
あたしは、いつもの顔つきを取り戻し、すたすたと
* * *
翌日。
午二つの刻(午後1時)。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます