第九話 命死ぬべく
十日に一回、
そして、母刀自から、十日に一回、必ず写経をしろ、と厳命されたのである。
月明かり、蠟燭、細い明かりではあるが、さらさらと紙に文字を連ねていく。
(
と、
「
と女官の声がした。
珍しい事もあるものだ。
「どうした?」
と
「お願いとは……。」
なんだ、と
「うわっ。」
驚きに、変な声がでた。
意氣瀬に許可を得ることなく抱きついてきた
「恋い慕っております。あたしとさ
「やめないか! そのようなつもりはない!」
己から久君美良を引き剥がす。
むしろ、不愉快で虫酸が走る。
主に召されたわけでもないのに、身の程をわきまえず、夜、自らを抱けと迫ってくる女官なぞ、
久君美良は、ぶわっと涙を流し、顔を醜く歪めた。
「どうしてです? あの夜、初めてお目通りした夜、
あたしは、意氣瀬さまに呼ばれる日を、一日千秋の思いで待っておりました。なぜ、
答える気にもならない。
誰と比べられるものでもない。
「出ていけ!」
罰を与えないのは、意氣瀬の温情である。
「わかりました。出ていきましょう。でもその前に一つだけ。
椿売は今ごろ、誰と逢ってると思います? 広瀬さまですよ。」
くっ、と喉をならして久君美良が笑った。
「馬鹿な!」
頭からざああっと血がひき、気がつけば
部屋に残してきた
「かっ!」
いきなり走ったので、
ぱたぱたっ、と血が
この頃、とみに出るようになった。
(忌まわしい!)
このような身体。
今はかまっている時ではない。
(椿売、椿売……。)
弟が奈良から帰国して、しばらくしてから、……椿売は、何かが変わった。
あの身体の、何かが。
知りたくない。
知りたい。
許せぬ。
信じたくない。
違う、何もない、もう許して、と懇願する椿売を責めた。
身体の
椿売は私の
……きっと、椿売が心ひかれる
私と違って健康で、自信たっぷりに笑う弟。
ずっと仲良くやってきた。
だが、あの逞しい身体が、私の
(許せぬ!)
それが真実なら、どうなるか、どうなるか……。
見ておれ!
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