人気の約束破り
ボウガ
第1話
近未来。ろくでなしといわれるタイプの“よく約束を破る人間”が人気になった。テレビでも特集されたり、“YBR”さんとか奇妙な呼び名がついたりする。大人たちは不思議がった。主に子供たちの中でそうした人種が重宝されるようになっていったからだ。よくある差別をやめようという流行や、多様性の流行かと思うが、しかし、よく約束を破るタレント。なども台頭し始める。
(この流行には何かある)
と大人たちは子供の流行を監視し始める。インターネット、ゲーム、スポーツ、本。そこで大人たちはあるものに着目した。
“メタバース”
だ。メタバースにおいて、その約束やぶりやろくでなしが流行しているようだ。
何で?大人たちはわからなかった。子供たちの様子を見ていると、メタバースに入るまえに色々な約束をしている。
“私は村人ね”
“僕は勇者”
“僕は領主”
どうやらロールプレイがはやっているようだ。子供たちにまじって、ある親が彼らを観察していた。退屈な物語が進行し、退屈なセリフや会話が続く。子供だとしてもこんなものに熱中できるなんて、なぜなんだろう?そして“件の約束やぶり”さんが洗われる。筋書きにないこと、村で暴れまわったりドラゴンに変身したり、村人をさらったり、身勝手なふるまいをする。だが子供たちは、彼が約束をやぶって、約束通りのロールプレイをする事を怒らない、むしろ楽しんでいるようだった。
メタバースから帰還した親が、体感したことを素直に他の親たちに伝える。ネットで、口づてで、それはこういう事だった。
“メタバースのロールプレイは、AIを利用して、約束事通りに進むように設計されている、それが非常につまらないしすぐに飽きてしまったのだが、約束を破る人間は、身勝手に行動するのでそれが物語やAIを活性化させるので、ロールプレイ上に必須というほどに人気がでたのだ”
その時代の親たちは、確かに子供たちにいい人間であること、真面目であることばかりを要求していて、約束を破る人間はろくでなしときめつけていたが、たしかに、こうしたイレギュラーがあることはいい事かもしれない、と考え、その流行をみとめ、約束やぶりさん、を多様性の一つとして認めるようになった。
人気の約束破り ボウガ @yumieimaru
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