第10話

 廊下を曲がると、葉佑の友達が待ち構えていた。

 和希のことを大声で盗人と言った彼らは、和希に一瞥をくれると、そのあとに続こうとした葉佑の腕をつかんだ。


「おい」

「なんだよ」

「なんでお前、あいつと一緒にいるんだよ」

「は?」


 あまりの迫力に横をすれ違う生徒たちは振り向くのに、和希だけは背中を向けたまま、止まろうともしなかった。


「なんで一緒にいちゃいけないんだよ」

「は?」

「なんだよお前、付き合いはじめたのか?」

「ふざけんなよ」

「冗談だって」


 遠ざかる和希に、葉佑は焦りを強くしたようだ。

 それでも和希は、何もかもを無視して立ち去っていく。


「なんだよ、本気になって」


 腕を乱暴に振り払われて、お友達はご立腹だった。


「あいつは俺の財布を盗もうとしたんだぞ!」

「違う!」

「何が違うんだよ。あいつは、俺の財布をもってどっかにいこうとしただろうか!」

「どっかって何? 届けようとしたのかもしれないだろ!」

「誰にだよ」

「職員室とか、あんだろ」

「んなわけないだろ! お前言ってたじゃねぇか! 落とし主が分かんだろ、アイツ。だったら」


 誰の目にも、葉佑がさらに怒りを募らせたのは明白だった。


「だったら何? 和希の話も聞かないで、決めつけて。何も知らないくせに、変人扱いして」

「はあ? お前なに言ってんだよ。あんな分けわかんねぇやつの言うこと、信じるのかよ」


 和希は言い争いには気づかないまま、視界の端へ消えていこうとする。

 葉佑は、もう和希の後を追うことを止めていた。

 

「なにも知らなきゃ、言いがかりをつけても良いの……? なにも知らないから、文句言っても良いんだって、思ってんの……? 自分が気に入らなきゃ、全員、悪者扱いして良いと思ってんのかよ!」

「じゃあ、お前は、友達の言ってること信じないで、あんなやつの言うこと信じるのかよ」


 怒声がどんどん遠ざかる。


「…あいつだって、友達だよ」

「あ?」

「俺はなぁ!」


 かすかに聞こえた葉佑の大声。

 1人閉じこもった和希の耳には、届かなかった。

 ――あの時みたいに。


 

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