20240104

『本当に……ごめんなさい!』


 私……いつもあなたに謝ってばかり……。


 あなたはいつも優しい声で許してくれるけど……それってあなたの本当の気持ちなの?


 それとも本心では……やっぱり呆れてます?


 だって、あなたと出会って初めて迎えた去年のクリスマスも、おめでたいはずの初詣も……私のお仕事の都合で一緒に過ごせなかったんですから……。


 ……その上、あなたは今日から仕事始めなのに、私は連勤明けで、気付いたら、こんな時間まで絶望的なお寝坊しちゃいました……。 せっかくあなたが送ってくれた『おはようLINE』にお返事もしないで!


 こんなんじゃ私……あなたの『恋人』になる資格、無いですよね……。



 今、私はお部屋のベッドにもぐってこの文章を打っています。


 何をしていても頭に浮かぶのは、あなたの笑顔……。


 そして思い出すのは、あなたと初めて出会った、あの日の事……。


*****


 あれは去年の秋でしたね。


 ……ある日曜日、私が近くのATMでお金を下ろそうとしたら、そこにパンパンに膨らんだ、ナンバーキーロック付のバッグが置かれていました。


 恐る恐る持ち上げると、お……重い!?


 軽く振ったら、微かに硬貨のような『チャリンチャリン』……という音がしました。


 あたりを見渡しても誰もいませんし、誰ともすれ違いませんでした。


 これは絶対、誰かの忘れ物です! しかも、かなりたくさんのお金が入っているようです!


 とにかく、急いで眼の前にある緊急インターフォンで、係のかたに連絡しました。


 ……すぐに連絡は付いたのですが、あいにくこの日は日曜で、近くに行員さんが居ないそうで、最寄りの警察に遺失物として届けて欲しい……と言われました。


 私は自分のお金を下ろすのも忘れ、恐る恐るバッグを自転車のカゴに乗せ、その上から私の上着をかぶせ、ドキドキしながら近くの警察署に向かいました。




「……全部で……325,500円ですね!」


 警察署で対応してくれた私服のお巡りさんが、そう言ってから深くため息をつきました。 額には、じんわりと汗がにじんでいます。 


 ……幸い(←なのか?)バッグのロックはかかっておらず、壊さずに開ける事ができたのですが、中に入っていたのは大量の硬貨と、これまた大量の千円札でした! それを数えるのが一苦労! 私も一緒に数えたのですが、小一時間かかりました。 


 ふーっ! 疲れたぁ〜!


「身分が判る物は入って無いな……。 本当にお金だけだ」


 せめて何か手掛かりが入っていれば良かったのですが、残念でした。


「……う〜ん……。 見た感じ事件性は無さそうだし、額も多いから、多分、落とし主から直ぐに連絡があるでしょ」


 お巡りさんは、お金を元のバッグに戻しながらそう言いました。


「……それにしても施錠していないわ大金たいきんを忘れるわ……この遺失者は、きっと今まで幸せな人生を歩んで来たんだろうねえ! アッハッハ!」


「ですね! ふふっ」……と、私もつられて笑ってしまいました。


 ……その後、必要書類に記入し、お巡りさんにお礼を言って、警察署を後にしました。


 その日は久しぶりにお買い物に行くつもりだったのですが、遅くなっちゃったし、お金下ろすのも忘れていたので、近くのコンビニにだけ寄って家に帰りました。


 ……お部屋で、のんびりとコンビニで買って来た雑誌をめくりながらお菓子を食べていたら、知らない番号からの着信がありました。


「…もしもし?」


 ……普段は知らない番号は無視するのですが、その時はなぜか出てしまいました。


「……突然のお電話、大変失礼致します。 わたくし、今しがた銀行に忘れたお金を警察にお届け頂いた『山葉やまは』と申します! 〇〇様のお電話でお間違いないでしょうか?」


 ドキッ!


(続きます)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る