第6話 腐女子はやめた話。

「あ、やべ」


 私は咄嗟に藍沢あいざわくんの観察を止める。

 今良い感じにイチャイチャしてたんだけどな……。悔しい。


「どした。推し可愛すぎて直視できないー、ですか?」


 透香とうかは相も変わらず、自ジャンル警備で忙しそうである。


 そういえば数日前、ついに透香も藍沢くんの可愛すぎる笑顔を拝見させていただくことができました!

『ああ、これは可愛いね』と、共感してくれてミズホちゃん大歓喜!

 でも、『んー、ごめん。やっぱ三次元でBL考えるのは無理そう』と言われてしまった。まあこればっかりは仕方ない。


 というか、非常にまずいことが起きていて、それどころではない。私はこれまでにないドでかい危機に瀕しているのだ。


「いやね、最近ね、見すぎてるせいかやたら目が合う……」


 ここ最近、腐女子みずほは最高の日々を過ごしておりました。実際に存在する推しをずっと眺めてられる環境が良すぎて……。

 でもそれが原因。マジで目が離せん。ほんとに四六時中見ちゃう。

 透香と話してても、私の目は藍沢くんを追っている、なんてことがありすぎて怖い。


 いいや、藍沢くんがずーっと誰かとイチャイチャしてるのも悪いでしょ!


「え? 目が合う?……誰と?」


 透香はすんごく目を細めてこちらを見てきます。絶対あらぬことを想像してますね。


「藍沢くん――」


「はあ……。腐女子失格ね。ちゃんと気配消しなさいよ」


 やっぱりね。

 てか腐女子失格とはなんだ! 私からそれを取ったら何も残らないじゃないか!

 ……自分で言ったけど、それはそれで泣きたいかも。


 でも、違うんです。


「――の隣にいつもいる瀧田たきたくん」


「……」


 お、ちょっとやわらいだ。


 瀧田くん、本名、瀧田伊織いおり。緩めパーマがかかった茶髪マッシュで、これまた背が高い。二年生にしてバレー部でレギュラーはってるぐらい運動神経が良い。言わんでも分かるとは思うが、彼も陽キャである。


 もちろん、私の推しである藍沢くんもレギュラーだからね! かっこいいね!


 ……それは一旦。一旦置いときます。

 危機とやらはですね、最近、推しを見つめていると瀧田くんと高確率で目が合うことなのです。自意識過剰なだけだと思いたいが。


「私はいつも瀧田×藍沢で妄想してます」


 彼は攻めの顔してるんです。もちろん彼もイケメンなのだが(重要)、系統として、甘い優しそうな感じなのだ。


 分かって欲しい! 砂糖顔イケメン攻めと塩顔イケメン受けの素晴らしさ!


「あっそ。でもまあ本人じゃなくても、周りにバレてたらアウトよね」


 はい、私もそう思っていたところです。

 世の腐っている皆さん、どうか私めに良い壁となる方法を教えてください。


「とりあえず見つめるの止めたら?」


「うー、……それしかない、よね?」


「知らんよ」


 透香、冷たいよ。キンキンじゃん。


 ……私にこの幸せを手放せと言うの…………?

 無理だよ……。うん、無理だ。だって私、腐ってるんだよ?


「今、瑞穂みずほの考えてること手に取るように分かるんだけど。開き直ってるでしょ」


「あは、バレました?」


「まあどうするかは瑞穂が決めれば良いし」


 ……大丈夫。出来るよ瑞穂! 見つめなければ良い話だから! 推しがいない日常に戻れば良いだけだから!(泣)

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