第1話 腐女子は見つけてしまった話。

 どうも。藤咲ふじさき瑞穂みずほと申します。高二の十六歳、いつもポニテをぶん回してる女です。家族構成は両親と兄が二人の五人家族となっております。


 ……はい、そうです。皆さんお察しの通り、私は腐っています!




 ある日の昼休み、教室にて。お弁当も食べ終わり、ぼーっとしていたときのこと。


 クラスメイトの男の子が、目に飛び込んできた。

 その瞬間、私、固まりました。


 えっ? 待って? 笑顔可愛すぎん?


 目元がくしゃっとなって目がなくなる感じとか、イラストみたいにきれいに笑った口になるとことか。全てが可愛く見えた。


 背が高くて、顔が整ってて、バレーボール部の部長候補で、みんなに慕われてる、クラスのある男子。

 


 私は彼を―――。



「圧倒的受け! 見つけちゃったの! 歓喜すぎる!」



 そう。私は、三次元クラスの中心陽キャ男子を、受け、としか認識出来なくなったのだ!

 あんなに男前成分が揃ってるのに。あんなに攻め要素が盛り盛りなのに!


「とりあえず落ち着け」


 十分休み、スマホで自ジャンルのタイムライン警備をしていた松井まつい透香とうかは、操作する手を止めないままテキトーに返事をしてきた。


 一応説明しますと、透香は私の仲間です。彼女も腐ってます。

 私との基本ステータスの差としては、背丈とか運動能力は私の方がちょい上。だけど、勉強と顔面はずば抜けて透香に軍配が上がる。

 そして、私はいつも、彼女のサラサラの茶髪が羨ましいと思ってる。

 あと、基本優しいけど、たまに毒を吐くので注意。


「一旦スマホを置いていただきたい」


「そんな重大?」


「もちろん!」


 私がそう言いきると、優しい優しい透香さんは、スマホを机に置いてくれました。


「あのね、心して聞いて欲しい」


「はあ」


 おお、なんつう興味のなさ。でも良いもん。こんな話できるの透香くらいだし! 話しちゃうもんね!


「あのね……! 藍沢あいざわくんがね! めちゃくちゃ受けなの!」


 心配しないで。ちゃんと小声です。


「藍沢……健人けんと?」


「そう!」




 彼を見つけたのは、偶然だった。

 私がたまたま席替えで、真ん中号車の一番後ろ、とクラス全体が良く見える位置になることができたからである。


 いつもは、透香と一緒にご飯を食べているし、透香がいなければ他の友達と食べるんだけど。たまたまその日はみんな、欠席、部活の集まり、委員会エトセトラで私はぼっち弁当だった。これも、偶然の要因。


 そして、食べ終わって暇なのでぼーっとしていたのです。その時だった。彼は光を放ち、私を惹き付けた。


 彼は、新学期が始まってからこの一か月で見せたことのない、強力な笑顔を解き放ったのだ!


 しかも、シチュエーションが可愛すぎて死んだ。ある野球部男子の坊主頭を彼が撫でている、という非常に尊き事態。何があってそういう感じになったのかは分からないが、とりあえずその状況、神すぎないか? そう思わん?


 しかーし! ここまでだと、彼は完全に左である。私も、その日その時はそうだと思い込んでいた。


 だが、違った! 全然違う!


 彼、構ってちゃんタイプだ!


 というのも、彼はボディタッチが多いのだ。

 話しかけるとき、ゲームをするとき、ただそこにいるとき。など全ての場面でのボディタッチを確認した。


 内容はこう。肩を掴む、手を掴む、腕を組む、……バックハグ! これは全て彼が男友達に向けた愛情表現である。というのを一週間観察して察知した。


 これらの行動! 私は全て受け要素だと思います! どうですかね?!

 というか! 彼のその時の顔はめっちゃ受け!

 だから、藍沢くんは圧倒的受け!


 と、運良く(彼にとっては運悪く)気付けた時から、彼は私の推しである。




「という訳なのです」


 オタク特有の早口スキルを全開にし、あの日欠席していた透香に説明した。


「ふーん? 瑞穂に三次元の推しなんて珍しい」


 お、透香さん、ちょっと興味出てきたっぽいな。


「でしょ? てか普通にBL考えずに見て欲しいっす。藍沢くんの笑ってるとこマジ可愛すぎて死だから」


「え、もしかしてガチ恋」

「なわけ」


「うん、だよね」


 変なことを考えるでない。

 彼は見る対象であって、見られたい対象ではないのだよ。

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