第6話 壮大な詐欺じゃないのか?



 僕の銃弾は残り1発。ジャンヌの銃弾は尽きている。

 それに対して敵は1人。

 何としても僕が敵を仕留めなければならない。もし外れると2人とも殺される。


―― ジャンヌだけでも逃げすことができないか?


 僕はそう考えた。

 敵は1人だ。僕が敵を引付ければジャンヌを逃がすことができるだろう。

 僕は決心してジャンヌに首から下げていたペンダントを渡した。


「これ何?」

「お守りだよ」

「お守り? 急になぜ?」

「もう弾が1発しか残っていない。僕が敵を引付けるから先に逃げてくれないか?」

「断る。一緒に逃げるって約束したでしょ」

「僕は大丈夫だよ。直ぐに追いかける。それまで僕のペンダントを君が持っていてくれないか?」


 ジャンヌはペンダントを見た。


“Marc Virtue”


「アンタって、英語だとマーク・ヴァーチューなのね」

「それを言ったら、ジャンヌ(Jeanne)だって英語だとジェーンじゃない?」

「そっちじゃなくてファミリーネームの方」

「ああ、そっち。本当はイタリア語でヴェルチュ(Virtù)だ。オーダーした時に職人が英語と間違えてeを足したんだ」

「でも、良い言葉だね。Virtue(美徳)って」

「ただのスペルの間違いだよ。でもありがとう」

「いえいえ」

「さて、そろそろ僕はいくよ。ジャンヌ、直ぐに会いに行くから。愛してる」

「私も。愛してる」


 ジャンヌと別れると、僕は敵兵の方へ走り出した。


―― 神頼みか・・・


 少なくとも今の僕にとって、何もしないよりはいい。

 それにしても、スペルが間違ってても大丈夫なのだろうか?



***



 僕はドレークの話を聞いて笑いが止まらなくなった。


「お前も女関係で問題起こしたの? 僕のこと文句言えないよな?」

「お前が笑うのはどうかと思うぞ? 俺なんか20歳で目覚めたら2回とも病院のベッドの上。2回とも女性に刺されて病院スタートなんだぞ」


 僕たちのやり取りを聞いていたアランは僕に質問した。


「20歳のときも何かあったのですか?」

「え? 家族から聞いてませんか? 僕が20歳の誕生日に当時付き合っていたメアリーに刺されたんですよ。僕の浮気が原因です」

「40歳のときも・・・」

「そっちは俺の不倫ですね!」

「威張ることじゃねーよ!」


 アランは僕たちの話を少しは信用したようだ。だから、僕は別の話をした。


「それと、話はもう一つあるんだ。夢の話だ」

「夢ですか?」

「僕はいつも見る夢がある。大体は戦場で戦っていて、僕はその戦場でマルクと呼ばれている。そっち(ドレーク)はダニエルって呼ばれている」

「ああ、その夢ですか。私はアンドレと呼ばれていますね」

「アンドレって、スナイパーの?」

「ええ」

「妻と息子を残して戦場に来た?」

「そうです。詳しいですね」

「射殺した人数が45人目か46人目かで僕と口論になった?」

「ええ。あれは46人目でしたよ」


 僕はマルク、ドレークはダニエル、アランはアンドレ。

 僕たちは同じ人間の人生を生きているし、同じ夢を見ている。

 異常な体験を共有していると言えるだろう。

 僕は本題を切り出した。


「なあ、行ってみないか?」

「あそこにか? 14年間も戦争続いたんだろ?」

「でも、1975年に終わった。今は戦時中じゃない」


 ドレークは少し考えてから「いいよ、アランはどうする?」と言った。


 アランはついさっき2人に会ったばかりだ。

 ここは慎重に判断しなければならない。


―― 壮大な詐欺じゃないのか?


 詐欺だったら、わざわざ59歳のおっさんをベトナムに連れて行かないよな・・・


 アランは決心した。


「行くよ」

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