第5話 お前も女性関係か・・・



 僕とアンドレは茂みの中から敵兵を射撃している。

 アンドレはスナイパー。僕は射撃が得意じゃないから、敵の位置をアンドレに知らせる係だ。

 アンドレの射撃が命中したから、僕たちは次のポイントに移動する。


「すごいな! 今ので45人目か?」

「違う違う。46人目!」

「1人くらい誤差じゃない?」

「スナイパーにとっては全然違う。スナイパーを根暗だと笑う奴らに『私は46人射殺した』と言うことは重要なんだ」

「へー、大変なんだな」

「スナイパーは物陰からコソコソ狙撃するだろ? 陰気なイメージが強いんだ」

「どうだろうな? 確かに戦車部隊のような華々しさはないけど」

「スナイパーにとって数は周りにアピールする手段なんだ」

「まあ、気持ちは分かるけど。人を殺さずに戦争が終わればいいのに」

「ああ・・・、早く家に帰りたいよ。先月、息子が生まれたんだよ」

「おめでとう。それは無事に帰らないとな。家族のためにも」

「『1歳の誕生日までには帰る』って手紙送ったところだ。絶対に生きて帰るぞ!」

「そうだな。そういえば、あれ送った?」

「手紙と一緒に送ったよ。あんな話を聞いたら送るよ」

「そっか。俺も作っとくかな・・・」



***



 僕とドレークはアランの実家のホテルにやってきた。

 高原リゾートにある小さなホテルだ。

 僕とドレークは実家の周辺を歩きながら感傷に浸っている。


「あそこの池で溺れたことがあるんだ。ホテルの従業員のジョンに助けてもらった。懐かしいな」

「ああ、懐かしい・・・」


 僕たちはホテルの宿泊予約をしていたから、チェックインするために受付に向かった。

 受付で呼び鈴を鳴らすと、中から従業員らしい中年男性が出てきた。

 僕は『この男性がアランかどうか?』の確信がない。20歳までアランだった僕だが、雰囲気が僕の頃と大分違う。

 一方、ドレークはこの男性がアランだと確信したようだ。チェックイン作業をするアランにドレークは話しかけた。


「あなたの名前はアランですか?」

「そうです。お客様、どうかされましたか?」

「実はあなたに話があって、俺たち二人でこのホテルに伺いました。少しお話しできる時間はありますか?」

「もう少しすると休憩に入ります。ちなみに、どういった件でしょうか?」

「俺たちの過去についてです」


 アランは怪訝な顔をしたものの僕たちに悪意が無いことを理解したのだろう。僕たちは30分後にホテルのロビーで会う約束をした。


 アランは飲み物を3人分持ってロビーにくると「それで話というのは?」と切り出した。

 僕がまず話をはじめた。


「僕はトニーといいます。19年前まではドレークという名前でした。そして、39年前まではアランという名前でした」

「アランは私と同じ名ですね。改名されたのですか?」

「いえ。僕は39年前から59年前まであなたでした」

「言っている意味が分かりませんが・・・」

「アラン、あなたは40歳よりも前の記憶はありますか?」

「40歳以前の記憶ですか・・・」


 アランは少し考えたものの「ありませんね」と答えた。僕は話を続けた。


「おかしな話だと思いますが、僕が0歳から20歳までのアランでした。そして、隣のドレークが20歳から40歳までのアランでした。そして、あなたが40歳からのアランです」


 アランは半信半疑で聞いている。誰だってこんな突飛な話を信じろというのは無理だ。

 僕は怪訝な顔をするアランに説明を続けた。


「例えば、僕が5歳のアランだった時、そこの池で溺れたことがあります。ホテルの従業員のジョンに助けてもらいました。ジョンはおじいさんでしたから、もう退職していると思います。このホテルにはいませんよね?」

「あー、ジョンは俺がアランだった時に退職したよ。今は近くの村でのんびりと暮らしているはずだ」とドレークがアランの代わりに言った。


 アランは僕たちの話をまだ信用していない。


「正直申し上げて、少し混乱しています。私があなた方の話を信じるに足る、何か決定的な証拠はありますか?」

「あなたが40歳になって目覚めたとき、頭をケガしていませんでしたか?」

「あまりはっきりと記憶していませんが、頭にケガをして病院に運び込まれたと聞いています」

「なぜケガをしたか、理由をご存じですか?」

「いえ。目覚めたときにそれ以前の記憶はありませんでしたから」

「そうですか・・・。ホテルの従業員にカトリーヌっていますよね? 彼女と俺は不倫関係だったんです」

「え? 私がカトリーヌと不倫?」

「ええ。俺たちが不倫しているのがカトリーヌの旦那にバレましてね。俺とカトリーヌがバーで飲んでいたら、旦那が殴りかかってきたんです」

「修羅場ですね・・・」

「あの時、旦那が振り回したウィスキーの瓶を避けようとして、俺はカウンター横のワインセラーに頭から突っ込みました。かなりお酒を飲んでいましたから、足がもつれたのでしょう・・・」

「血まみれで病院に運ばれた?」

「でしょうね。あの時、俺は旦那に『損害賠償しない代わりに、カトリーヌとの関係は無かったことにしろ』と交渉したんです。旦那は『分かった』と言いました。男同士の約束です」

「だから、それ以降カトリーヌは私と何もなかったように振舞っていた?」

「今のあなたがカトリーヌと不倫していなければ、そうでしょう。もし俺の話が疑わしいのであれば、カトリーヌかカトリーヌの旦那に聞いてみて下さい」


―― 本人の知らないところで不倫すんなよな・・・


 アランはため息をついた。

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