第16話 どうする?爺様

さて、爺様の奇妙な行動は、変わらず、僕ら家族も、婆様のご加護の元、平凡な生活を続けていた。けど、その影には、婆様の負担が大きく押しかかっていたんだ。僕は、すっかり、気づいていなかった。それは、勿論、長男で、能天気な親父もそうで・・。異変は、婆様の記憶違いとなって現れた。爺様は、週に何回か、デイサービスに行っている。認知症なので、持ち物には、名前を書いていて、その日も、お迎えに来て、

「寒くないですか?」

職員さんに声を掛けられ、その近くにあったジャンパーを着せて出したらしい。その日は、晩秋というのに、暖かく、爺様は、上着を着ないで、帰ってきた。

「これは、太郎さんの忘れ物です」

職員さんが、忘れ物として、届けてくれたジャンパー。でも、婆様は、違うと言う。

「きちんと、持ち物には、名前を書いているし、そのジャンパーは、見たことがない。」

と言うのだ。僕も、見た所、そのジャンバーは、よくあるウニクロのジャンパーで、僕も、クラスでよく見るやつだった。

「本当だ!」

名前は、どこにも、書いていない。確かに、婆さんの言うとおり、誰か、別の人の忘れ物を、職員さんが届けた。誰もが、そう思っていた。が、事実は異なった。職員さんは、その日の利用者さん達、全員に電話を掛けて、確認してくれたが、誰も、持ち主はわからなかった。一体、爺様のジャンバーは、どこに?そう思っていた所に、親父が帰ってきた。

「俺の買ってきたウニクロのジャンバーいいだろう?」

何が、起きているのか、知らない親父が、発言した。成り行きは、こうだ。寒くなってきたので、親父は、ウニクロに出かけたついでに、爺様にも、ジャンバーを購入し、玄関に置いた。デイサービスに出かける寸前だった爺様に、婆様は、それが、自分の家の物だと認識できないまま、着せてやったのだ。デイサービスの職員さんが言う太郎の持ち物というのが、正解だったのだ。当然、認知症の爺様は、自分のものと言う認識はなく、爺様のジャンバーとしての、認識のない婆様は、

「こんなの!うちのじゃない。必ず、名前を書いていたんだから!探してちょうだい!」

と言った婆様は、面子が立たず、親父は悪者になった。その事が原因なのか、婆様は、体調を崩し、入院する事になった。どうする爺様?

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