第14話 頂き爺さん、お宝競争

うちの爺様、秋深く、日没が早くなったので、自宅に戻る時間が早まり、婆様も、ほっとする様になりました。僕も、部活が終わる頃には、暗くなるので、外で働いている爺様を見る事もなくなり、ホッとしている今日この頃。爺様の採ってきた渋柿に当たるのは、兄ぐらいで、平穏な生活を送っています。部活の新人戦では、惜しくも、3位で、表彰され、ようやく、普通の中学生の生活になってきました。僕も、多感な中学生らしく、気になる女の子ができたりで、爺様の奇妙な生活の事は忘れておりました。が、やはり、あの人は、凄い人だと思った。僕の淡い初恋も、消えてしまいそうな事に。毎年、秋が深まってくる頃、町内会の体育祭があり、シニアの部で、50m競走がある。題して、お宝拾い。紙袋に、雑貨類を詰めてあるのを、ヨーイドンで、拾い、速さを競うので、近所の早足自慢の男女が、参加する。もちろん、爺様は、認知症で、長靴を履いているから、声も拘らず、僕と兄は、婆様達のダンス(今年は、マツケンサンバだった。)を囃し立てるのに、見に来ていた。そう、爺様は、留守番のはず、だった・・・・が。一列に並んで、ヨーイドンの掛け声が上がった時、観客が爆笑しているのを、僕らは聞いたんだ。僕は、兄とすベリ代の上で、クラスメイトと高台から、見下ろしていた。

「なんだあれ?」

声が上がる方向を見て、びっくり。景品の置いてあるお宝が、横切って現れたどこかのお爺さんに、次から次へと、奪われているではないか!ヨーイドンで、スタートしてきた人達と何やら、揉めている。そのお爺さんは、一人のお婆さんとお宝を巡って、熾烈な戦いを起こしていた。

「おいおい反則だろう」

誰かが言った。確かに反則だ。なかなかお宝を離さない。その爺さんは、長靴を履いており。その腰には、タオルを下げており・・・え?爺様?マツケンサンバの格好をして待機していた婆様の目玉が三角になっていた。

「爺様?」

家で、留守番している筈の爺様は、歩いて校庭まで来ており、何を思ったのか、横から、お宝取りのレースに参加していたのだ。そして、何と、お宝を奪い合っていたのは、僕の初恋の相手、花蓮ちゃんのおばあちゃんだったのだ。

「爺様!」

僕は、悲鳴を上げた。この秋、僕の初恋も終わりを告げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る