第4話 授かり物

僕の家には、暗黙のルールがある。それは、トイレに関する事。爺様のいる1階のトイレには、行ってはいけない。認知症を持つ家族の人は、ピンと来たと思うがまさに、その通り。爺様のいる1階のトイレには、お供え物がたくさんある。

 爺様は、お便秘症だ。定期的な便が、来ないと、落ち着かなくなる。ウロウロして、神下ろしが始まる。トイレに、行くが、運が悪く、早く届いてしまう事がある。そうすると、爺様は、大事に紙に包んで、お供えして置く。勿論、その場所にだ。

「うわ!」

間違えて、1階のトイレに入った親父が、転がり出てきた事は、何度もある。

「入っちゃ!いけないんだよ」

爺様を責めるのではなく、入った人を責めるのが、我が家のルール。だって、爺様は、神様に近い。誰も、爺様を説得する事も、納得させる事もできない。爺様は、自由だ。自然のままに生きている。1階の部屋のあちこちに、紙に包まれた授かり物が、あちこちに置いてある。

「こんな所に、野良猫が、○○していった」

庭で、踏んでしまった兄が、半べそで、戻ってきた。

「それは、爺様の授かり物だべよ」

「授かり物?」

「あいっちゃー投げたんだ」

婆様は、飄々と言ってのけた。聞く所によると、爺様が、あちこちに紙に包んだ授かり物を置くが、トイレに流せない紙に包んでいるので、仕方なく、庭に捨てているとの話だった。婆様に、悪気はなく、その投げ捨てた授かり物を、兄が、フンずけて、泣いてきている。

「くっせ!」

僕が、叫ぶと、兄は、余計に顔をクシャクシャにして、悔しがった。爺様の授かり物は、薬を飲んでいるせいか、凄く、人工物、臭い。自然の臭さとは、違う。薬臭い。そして、すごく硬く、パンツの中に、這い出てきた時に、爺様は、それがなんだか、わからず。手で、掴んで、出してしまうらしい。その後、置き場所に悩んで、ティッシュに包んで、あちこちに、置くらしい。1階のトイレには、そのまま、床にいてある。一度、出窓の飾ってある時は、びっくりして、二度見した。臭いから、それだと、すぐわかったが、とても、誇らしげに、窓辺に並んでいた。とても、立派な授かり物だった。爺様は、僕らの考えられない価値観で、日々、生きている。

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