決戦の刻(後編) 〜Time of decisive battle〜
ほどなくして遥と水野も作戦を開始。地下通路から宮殿に侵入、薄暗い中を目を凝らし進む。
「計画通りならロイドは全て議場にいます。最上階から侵入し、気づかれる前にメインを見つけましょう」
「はい」
宮殿の心臓部である議場とシャトルの中にメインシステムはなく、皇帝の居室にあったシステムもダミーだった。どこにあるのか、水野にも見当がつかない。
「注意して進みなさい」
銃を手に頷く遥。笑顔の消えた精悍な眼差しに水野の胸は傷む。あの時、仕事や使命から逃げなければ、遥の側を離れなければ巻き込まずに済んだかもしれない。それどころかこの争いさえ……起きることはなかった。何も気づかず敵の思惑通り動かされていた自分が情けない。
水野もまた遥同様、自責の念に駆られ多くの罪を背負いこの場に立っていた。
──終わらせる、必ず──
互いに強い想いを胸に秘め、進む。
そんな二人を監視する目が。首謀者であり水野の宿敵とも言える羽島だ。
「あいつも歳だな、計算通り宮殿に現れるとは」
不敵な笑み、指を鳴らすと背後に男が現れる。
「サファイア様、お呼びでしょうか」
「二人とも殺せ。それからロイドももういらん」
「ロイドも……」
「あぁ、今までご苦労だったな、ヤブ」
羽島はどこかへ姿を消した。残されたオニキスはモニターを操作すると白衣をなびかせ部屋を出る。残されたモニターはカウントを始めた。120から徐々に数字が減っていく。
そして二人を追う影は他にも。宮殿へ向かい全速力で街を駆け抜ける。
「はぁ……はぁ…」
食べるどころか水も飲めない環境、生身の身体が悲鳴をあげ苦しそうにうずくまる。
「くそ……遥……」
呟き力を振り絞ると立ち上がり、また走り出す。宮殿はまだ先、朝日に照らされる横顔は……海斗だ。
「水野さん」
不気味なほど静かな捜索の途中、遥が小さな声で呟く。
「何ですか」
「水野さんはどうして戦場に? 」
「自らが撒いた種を回収する為です」
「ロイドの事ですか」
「いえ。羽島と英嗣を殺す事も出来ず、不用意に情報を与え二人を繋げてしまいました。それから、あなたをショップに関わらせ守る事もせず離れてしまった。今、あなたが背負っているのは私が背負うべき罪です。申し訳ありません」
遥は黙る。確かに憤りやいらだちもあった。リーダーになり自爆事件が起きてロイドが迫害され、どうしていいかわからなくていつも孤独だった。
「本当に……どれだけ願ったか」
それでも少しだけ、報われたのかもしれない。こうして気持ちを告げられる日が来たのだから。
「水野さんが現れて、全部解決してくれる日が来ることを。私なんかに任せるんじゃなかったって……叱ってくれるのを、ずっと待ってたのに。こんなになる前に」
涙も出なくなっていた遥の声が揺れる。
「街を、離れていました。仕事で各地を巡っていたので異変に気付くのが遅れたのです。これからは私が負います、ですからもう荷を降ろし自分の人生を……歩んでください。よく、頑張りましたね」
「滅ぼすんですね、共に生きてきたロイドを」
「仕方ありません。ロイドの使い方を間違え、あまりに大きな争いを起こしてしまいました。本当に滅びるべきはロイドではなく、それを操る者達。傲慢で独善的で支配欲に満ちた……でもキリがありません。ロイドがいる以上、悪用する人間は生まれ続けます」
水野の言う事は最もだった。終わらせる方法はただ一つ、ロイドを滅ぼす事。
「そう……ですね」
潤んだ瞳、その眼差しが強くなる。
そしてまた二人は歩き出した。自責、後悔、哀惜……一つ一つの出来事が、青い空と緑とロイドのいた不思議な時代が、二人の間を駆け巡り通り過ぎていく。
「水野さん、ここだけ音が……」
遥が見つけた隠し扉、そこには修理センターにあったのと同じ旧式の箱型PCがポツンと置かれていた。いくつものウィンドウが開かれ作動している。
「メイン……ですね」
“HK:1022:RM”
やっと見つけたメインシステムにコードを入力し、強制終了を選択。
ガタン、プシュー……
PCがダウンするのと同時に音が聞こえ、闇が現れる。
終わった。
ゴーグルのライトを付け部屋を出る。歩き出し階下へ向かううち、廊下に倒れたロイドを見つけた。
「終わったんですね」
「えぇ……」
ロイドとメインシステムは葬った。しかし、まだ首謀者がいる。見られている気配を何処かに感じながら進む水野、しかし遥にそれを告げる事はない。
「生きなさい」
唐突な言葉に遥は動きを止める。
「もうすぐ内藤が迎えに来ます。ここを出てどこへでも……願っていた幸せとは違うかもしれませんが、きっとまたいつか……笑える日が来ます」
「でもまだ首謀者が」
「後は私が」
「そうだぞ沙奈」
突如、轟く声。
「まだ終わっていない。首謀者である私との戦いがな」
二人の前に、とうとう英嗣が現れた。
その頃、内藤は宮殿に入ろうとして戦闘に。
襲ってくるロイド達。レーザーでは無駄、わかってはいても遠ざけるため撃つしかない。
「どうしてお前らがここに……」
内藤は立ち向かってくるロイドの事をよく知っている。遥と離れてからの自分が作った壊れないロイド。ボディはもちろん記憶装置や細部に至るまで頑丈に、おまけに共感力を高める為、高性能の学習装置まで……戦闘時に発揮されれば相手の行動パターンを瞬時に分析する。
予想通り攻撃は読まれ、交わす事しかできない。どうしてここに……倉庫の片隅に眠っていたはずの彼等がなぜ。
「ぐはぁっっ!! 」
投げられ地面に叩きつけられる。目の前にいるのは2体、あと3体……どこかにいる、もしかしたら。向かってくる拳を交わし起きあがる。
「遥……」
壊れないロイドを壊す方法はない。隙をついて猛スピードで駆け抜ける。暗い地下通路、内藤が探すのはメインでも首謀者でもなく遥だ。
「遥……先に、行きなさい」
何度も地面に打ち付けられ、水野はまともに立ち上がる事さえ出来なくなっていた。何発撃っても倒れないロイドに苦戦しながらそれでも遥を守り、遂には交わしきれず投げ飛ばされて。放っておけるはずがない遥が水野の前に立ちロイドと対峙。
「身の程知らずな。沙奈に倒せぬ物を倒せるはずがない」
上から高みの見物で手を下そうとしない英嗣を水野は睨みつけ一発。光線は英嗣の脇をすり抜けていく。
「もう少し右だ。さすがに衰えたな沙奈」
「二度とそう呼ぶなと言ったはず」
倒れないロイドに苦戦しながら水野を守ろうとする遥、水野も再び立ち上がり英嗣に銃口を向ける。
「遥、行きなさい。英嗣は私の敵、手出しは無用です」
「でも」
「早く!! 内藤も、もう着く頃です」
「私も戦います。最後まで」
カチャリ、リボルバーを回転させ出力を最大に。
「下がって」
バン!!!
とてつもない衝撃を受け壁に激突したもののロイドは吹き飛ばされ、割れた壁の向こうに見えなくなった。
「お前はいつもそうだ。大事な所で邪魔をしていつも私を怒らせる」
ひび割れた地面に英嗣が降り立つ。
「遥、逃げなさい」
「邪魔だ」
「水野さん!! 」
「しばらく気絶でもしていろ」
その手が遥に向く。
「気が済むなら殺してください」
「まだだ、地獄の苦しみを味わわせてやる」
またロイドが現れ遥に襲いかかった。撃ちながら走って逃げる遥を執拗に追い回す。
「苦しむがいい。弱ったその身体で息も出来ぬほど苦しみ抜いた後、殺してやる」
気を失い倒れたままの水野から、遠ざかっていく。
はぁ……はぁ……
荒い息遣い、はやる鼓動に足がもつれてとうとう遥は倒れ込んだ。もう走れない、苦しそうに胸を抑えうずくまるその背後から迫る影。
そして頭に、銃を突きつけた。
「苦しいだろう。余命の半年はもう過ぎているからな」
「どうしてそれを……」
「知らぬと思っていたか。海斗も兄もお前を利用していただけだ。短い命ならちょうどいい、それにお前も身に余る幸せだったはずだ。好きな男を強引に自分のものにしたのだからな」
潤む瞳、涙の塊が落ちぬまま遥の視界を揺らす。
「恥ずかしい女だ」
なぜか銃が離れ、足音が遠ざかっていく。最後の力を振り絞り銃を。
振り返ると英嗣は背を向けていた。
今なら……撃とうとした指が止まり逡巡を見せる。今度は英嗣が銃口を向ける。
「私は一番嫌いだ。渚やお前のような女がな! 」
言葉が遥の動きを止め、そして。
「弱く儚げなふりで惑わし男を操る悪女め」
大きく二発、銃声が響いた。
『遥!! 』
叫ぶ二つの声。愛する男の目の前で遥の身体が宙に舞い鮮血が散る。
「遥、大丈夫か、遥!! 」
地面に叩きつけられる寸前、大切そうに抱きとめられた身体は力なく、揺さぶっても反応はない。
抱きとめたのは海斗。
一歩遅れ辿り着いた奏翔はただそれを眺めるしかなかった。
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