因縁 〜fate〜
「水野さん! 」
ロイド軍の基地で三人は再会を果たした。懐かしいはず、それなのに水野は遥に突きつけた銃を下ろそうとしない。
「銃を下ろせ、さもなくば撃つ」
内藤は遥を
睨み合う二人。
「
「黙ってろ、遥に手出しする奴は誰だろうと許すわけにいかない」
引き金に指が掛かる、
バスン!
「何だ」
「
何か落ちたような爆音とサイレン。廻る非常灯、鮮やかな赤が空間を照らす。地響きのごとく迫る無数の足音、招集されたロイド兵が集まってくる。
レーザーの嵐、咄嗟に水野も内藤も遥の盾となり反撃する。
「離れなさい」
水野は一言そう言うと銃をしまい、グローブを撫で指先から青白いレーザーを放った。
弓のように放たれた光線、しかし兵に届くと爆発、ロイド兵数十体を一気に弾き飛ばした。
「
それでも続くサイレン、三人の身体的特徴を細かく捉え武器の仕様までアナウンスされ。
「どういう事だ」
「見られています、もちろん音声も。基地内すべてにカメラが。今時珍しい事ではありません」
「来る……」
遥が呟くも二人には何が来るか、わかる前に遥がレーザーを放ち遠くで命中する。
「逃げないと……」
「カメラのない所にな」
「来なさい」
水野の先導で共に走り出す。信じていいのか……内藤は不安の眼差しを向ける。遥がまた裏切られる、それだけは避けたかった。
宮殿中に響くサイレン、それは海斗が閉じ込められているあの部屋にも聞こえていた。
「誰か!! 誰かいないか! 」
どこからかやってきた炎で室内は燃え始めていた。立ちはだかる金の扉を拳で叩き、必死に叫ぶも助けが来る気配はない。
「
侵入者の排除に衛兵まで出払っているのか、海斗の顔が悔しそうに歪む。あいつを殺し、全て終わらせるつもりが逆に罠にはめられてしまった。
「クソッ……」
漂う煙、焦げ臭い匂い、バチバチ弾けるような音……脳裏に浮かぶあの火事。
「誰か…誰か……来てくれ…」
声を出すたび煙が気管に、気力も体力も奪っていく。いつもは兵士の持つ個人IDで開けていた扉、しかし停電でシステムが全てダウンしてしまった。助けなど……呼んでも無駄なのかもしれない。
「ゲホッ、ゴホッゴホッ……」
叩く力は次第に弱まり、やがてずるずると……滑るように体勢が崩れる。やがて倒れた海斗に、起き上がる力はもう残っていない。
うっすらと、開いた目から流れる一筋の涙。
「は……る……」
最期の時、うっすらと微笑み海斗は静かに力尽きた。魂の抜けた肉体から転がり落ちる黒い塊。
ころころ転がり壁に。
火に触れた瞬間、爆発した。
バキッ…メリメリ……
「何の……音? 」
「揺れるぞ、かがめ! 」
ドゴォォォン!!
衝撃を感じ、立っていられない程の揺れに襲われた。元々、雑に作られていた回廊の壁に亀裂が走り、砂埃が立つ。
「急ぎましょう」
まずは二人を安全な場所へ、頭を守るよう指示し先を急ぐ。爆発のせいかロイド兵からの攻撃はなくなった。まだ通れそうな通路からむき出しの配管を上り、夕陽の
去り際、水野は振り返る。
まさか……海斗に渡したのは不発弾、投げたとしても爆発はしない。何をするかわからない……虚ろな目が頭から離れなかった。
「うまくいったな」
「さすが父さん」
暗闇の中、ネオングリーンの光に照らされる不気味な口元。
「
「焦ってるよ、モニターの前でね。彼女とケンカしてるみたい」
「怒ったら煮豚か焼豚か……笑えるな」
「容姿については言わないほうがいいよ。彼女もじきに捨てられる、可哀想な人なんだから」
「お前は女に甘すぎる」
高らかに笑う二人。ここは草野医院の地下にあった研究室と同じ造りのラボ、そこにいるのは白衣姿の英嗣と偽物の海斗だ。
「あれから8年……長く屈辱の日々だった。あんなぼんくらに取り入ってラボを建てさせ計画を進め……まず海斗の始末に成功した」
「誰に知らせる? やっぱり裏切り者の遥かな」
「考えてある」
英嗣は古びたキーボードをカタカタと鳴らし、何かを打ち込む。
「データを送っておいた。その通り動け」
海斗の手の甲に光る文字が。スクロールして全て読むとわかったと頷いた。
「隠れて生きる日々ももうすぐ終わる。成功すればお前が本物の海斗だ、立場をよく考えて行動するようにな」
「わかってるよ、約束したんだ。全部終わって偉くなったら
「行ってくるよ」
出て行く海斗、その背中に呟いた。
「偽物は所詮、偽物にしかすぎん」
立ち上がる英嗣、仮面を被り白衣を翻すとシステムを消してラボを暗闇に。
「宿願を……晴らす時が来たな」
宿願……海斗を、そして遥を殺さなければならない程の恨みを英嗣は持っている。二人の身に迫る危険、家族の別離はそのせいで起きていたのかもしれない。
二人はどこに向かったのだろうか。
遥は膝を抱え
胸に抱かれ、遥の瞳が不思議そうに内藤を見つめる。吸い寄せられ触れ合う唇、我慢できなくなり勢いづくも我に返り身体を離す。
「ごめん……」
謝る内藤の頬に触れる白い手。
「いいよ……来て」
微笑み遥は内藤を受け入れる。
孤独に傷つき愛を求め重なる二人、幸福や性欲ではなく、それは動物が傷を舐め合う行為と似たような事なのかもしれない。
水野は跡地にやってきていた。天井の一部が抜け通路はむき出しに、ロイド兵や幹部達がいる気配はない。
止まない胸騒ぎ、やはり爆心は皇帝の居室だったらしい。
辺りを探ると何かが焦げた跡……瓦礫が鳴る音。
「無事だったのですね」
音と影で見つけた海斗の背に声を掛ける。夜空を眺めていた海斗が振り返った。
「案内しましょう、遥の所へ連れていきます」
歩き出す水野、しかしその背に思いがけない言葉が。
「関係ない、彼女がどうなろうと」
「本気で言っているのですか」
答えない海斗。水野が振り返った時、そこにもう姿はなかった。
海斗と遥の動き方に疑問を感じつつ水野は隠れ家に戻ってきた。頭を抱え座る内藤、傍らに眠る遥……上着らしき物は掛かっているが雰囲気で気づいてしまう。
「抱いたのですか」
軽蔑を隠さない水野に内藤は頭を掻き苛立ちをあらわに。
「露骨過ぎんだろ……聞き方が」
「意外です、あなたがこういう手段に出るとは」
「どういう意味だよ」
「目を付けるのも当然です。この戦争は草野英嗣が羽島と結託し起こしたもの、そして駒として遥と海斗を使った……そう考えるのが自然です。遥の協力なくしては起こり得ない」
「バカな事言うな」
水野の目的、それに気付いた内藤は怒る。
「あり得ない、んな事あるわけねぇだろ」
「海斗の命を盾に脅されたのでしょう。今、あなたと共にいるのも監視の為」
「違う……」
「海斗の為なら何でもします」
「理由がねぇんだよ……遥があんな事される理由が」
何をされたのか、内藤は知ってしまった。
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