Plan-T 植物を育てて異世界無双
巨豆腐心
第1話 勇者パーティー、壊滅!
Prologue 勇者パーティー、壊滅!
「魔王に挑むなんて、早かったんだ……」
勇者は瀕死の重傷を負いながらも、必死で立ち上がろうとしていた。
パーティーはほぼ壊滅し、残っているのは勇者ぐらい。
しかも聖剣デュランダルは根元から折れ、オリハルコン製の鎧はもうその体を為していない。
必殺技は尽き果て、立ち上がる気力すら潰えて、目は霞み、立つことさえままならなくなっていた。
人類存亡をかけた戦いに負けるのか……。
それでも、勇者は諦めない。この命ある限り戦う。その使命感が後押しし、魔王の前に立ちふさがる。
魔王はすでに勝利を確信したのか、笑みを浮かべて勇者をみつめる。二十人近くいた冒険者のパーティーはほぼ全滅させた。遮る者は瀕死の勇者だけ……。もうすでに帰趨は決していた。後はなぶり殺しの時間だ。
魔王も舌なめずりする。
これで……世界は我が手に! そんな昂揚で、魔王は一歩踏みだす。
勇者も折れた剣を必死に構える。人類の希望は風前の灯火となり、今にも消えそうだった――。
「イクト~!」
そんな修羅の巷に、可愛らしい女の子が駆け寄ってくる。
魔王や勇者には目もくれず、そこに倒れている、ツナギの作業着をきた、冒険者にすら見えない男に駆け寄ると、躊躇うこともなくその体を抱きかかえ、熱い口づけをかわす。
すると、堰を切ったようにわらわらと多数の女の子たちが戦場に現れ、代わる代わる男にキスをする。
意識を失ったふりをしていた男も、堪らずに目を開けた。
「勇者さんが元気なうちにでてきたらダメだって……」
「でも、イクトが倒れているし……」
「チューできるチャンスかなって」
「大丈夫。私の能力で魔王と勇者の記憶ぐらい、消してやるから」
女の子たちが、代わる代わるそう訴えてきて、ボクもため息をついた。
「勇者パーティーが敵わない魔王の攻撃だよ。一般人のボクが平然と立っていたら、おかしいだろ? ボクはただの食糧調達係。戦うことを望まれていないのに……。それと、すぐ誰かの記憶を消す、とか言わない! そういうことは本来、やっちゃいけないことだからね」
諭すように、女の子たちに向かってそう語るが、場を弁えていなかった。魔王も勇者も、呆然とこちらをみつめていたからだ。
魔王も目を丸くしている。そもそも、精霊? 女の子たちが駆け寄ってきたことも驚きだけれど、冒険者パーティーの背後にいる一般人、そう思ったから、あえて直接攻撃はしなかったが、そのため生き残っている者がいたか……。
「キサマは……何だ⁉」
「何だ……と言われても、ボクは植物の知識が豊富で、野草を集め、足りない食糧にする目的で冒険者パーティーに協力する、一般人で……」
なるほど、爆風で勝手に倒れた、と思いこんでいただけだ。魔王も改めて、その男に狙いを定めた。
「一般人が、我の攻撃をうけても平気なはずがない!」
「はずがない……か。そういう決めつけって、失敗の元だと思うよ。こうなるかもしれない……そう予想をしておけば、慌てることもないし、驚かずに済む。確率が低いことでも、事前想定で問題への適切な対処も……」
ボクが説明している間に、魔王は自らの魔力を練り上げ、巨大なエネルギー弾をボクに向けて放ってきた。
びりびりと凄まじい轟音を上げながら、ボクへと迫ってくる。ボクは自分の後ろにいる女の子たちを守ろうと前にでた。
ぺしッ!
多くの冒険者を瀕死の重傷に追いこんだその攻撃を、ボクは飛んでいる蛾を、害虫として追い払うときのような、そんな片手で振りはらうだけで、叩き落すことができてしまう。
「バカな‼」
魔王の叫びに、ボクはうるさいとばかりに耳を抑えつつ、こう返した。
「だから言っただろ? 事前に想定しておくことが大切だって。自分の最大級の攻撃だって、効果ない相手がいる。ボクは一般人で、戦うつもりもないけれど、これ以上やると……」
そう、ボクはそんな魔法攻撃なんてまったく効かない。この異世界で、無双状態となってしまった一般人だった。
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