第14話『交換手さんの電話と王女さまの呼び出し』
やくもあやかし物語 2
014『交換手さんの電話と王女さまの呼び出し』
明日は日曜でお休み。
前の晩はハイジたち気の合う仲間同士で遅くまでお喋りしてグッスリ。
だったのに、夜中にふと目が覚めた。
うっすら開けた目の端がほのかに明るい。
チロリと目を動かすと、机の上の黒電話がうっすらと光ってる。
ほら、RPGのゲームやってると、キーアイテムとかが光ってる、あんな感じ。
よく見ると、光り方には強弱があってホタルみたい。
ん…………このテンポは……電話が鳴る時の間隔。
マナーモード?
相棒のネルは口を半開きにして寝息を立てている。
ひっそり起きると、膝立ちして受話器をとった。
――あ、やっと通じたぁ!――
それは、懐かしい交換手さんの声だった。
あくる朝、ダイニングでトレーを持ってカウンターに並ぶ。
わたしの前が食いしん坊のハイジ、後がまだ目の覚めきらないネル。
ハイジがパンを三つも取って、サラダもスクランブルエッグも山盛りにして、わたしの番がきたところで、食堂のおばちゃんがこっそりと言った。
「王女さまがお呼び、食べたら三人で王宮に行って」
!?
「え」「あ」「はい」
いそいで食べなきゃ!
ガツガツガツ ムシャムシャ モソモソモソ
ゆっくり食べるネルとお代わりをとりに行きたがるハイジを急き立ててダイニングを出る。
「ウンコ!」
「ええ?」「なに?」
「間に合わせっから……(;゚Д゚)!」
ピューー
返事も聞かずにトイレにダッシュのハイジ、ネルは、ようやく血圧が平常値になり、とっとと先に行く。
「あ、待ってぇ(;'∀')」
マイペースなエルフを追いかけて、王宮のエリアゲートに着くと、ハイジが砂煙を上げて駆けてきた。
「スッキリしたぜ(^▽^)」
「手は洗ったのかぁ?」
「おお、ケツも洗ったぜ!」
そういうと、制服の裾で手を拭いた。
「朝からごめんなさい。実は、三人にお願いがあるの」
王女さまはサバゲーにでも行くような姿でお待ちになっていた。
「え、どっか戦争にでもいくのか?」
「ちょっと黙ってろ」
さすがにハイジをたしなめて、王女さまに正対するネル。
「露天風呂にデラシネが現れた、知ってるわよね?」
知っているも何も、出くわしたのはわたしだよぉ。
「デラシネは露天風呂に惹かれて現れたの、露天風呂はデラシネに活力を与えるようで、この先、危険な存在になるってティターニアから申し入れがあったの」
ティターニア?
「森の女王よ、女王は『露天風呂を作ったのは人間だから、人間たちでケリをつけて欲しい』と申し出てきたの。ケリをつける人間は、向こうから指名してきたわ」
「ギョエ!」
「それが、あたしたち三人というわけですか?」
ハイジが目を剥きネルがピンと耳を立てた。
「それに、露天風呂を作ったのはわたし。わたしも行きます」
「「「ええ!」」」
そうか、それで、このサバゲーなんだ。
「それはなりません!」
いつの間にか来たのか魔法学のソフィー先生がやってきた。
「ソフィー」
「殿下を危険にさらすわけにはいきません。ティターニアの指名も、この三人です」
「でも、事の始まりはわたしよ。大丈夫、ソフィーに付き添ってもらってだったけど、無名の島から魔法石を取ってくることもできたし(せやさかい408『ヨリコ王女、無名の島で初めての国事行為に臨まれる』)大丈夫よ」
「それに、ティターニアから指名があったのは、あくまでも、この三人。違えてはなりません」
う……こんなに厳しい目のソフィー先生は初めてだよ(;'∀')。
ネルもハイジも息を呑んでしまった。
「だ、だいじょうぶです! 三人で行きます!」
口走ってしまった。
夕べ、交換手さんの電話が無かったら、この決心は言えなかったと思うヤクモだったよ。
☆彡主な登場人物
やくも 斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
ネル コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
ヨリコ王女 ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
ソフィー ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
メグ・キャリバーン 教頭先生
カーナボン卿 校長先生
酒井 詩 コトハ 聴講生
同級生たち アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
先生たち マッコイ(言語学)
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