近未来と抵抗の村。

ボウガ

第1話

 ある青年。大学生で、人一倍努力しても人より能力が低い。自分なんか本当にだめだ、もう本気をだしても何も変わらないし、大人になる前にすべてを諦めようか。そう考えながら、その絶望を希望に変える関わらないか、ある遠くはなれた国に面白い場所があるというのを調べて、彼はそこへ行くことをきめた。飛行機を乗り継ぎ、夏休みに旅行にでかけた。友人もいるにはいるが今回は、彼の住む近未来の都市を離れた。飛行機の中、近未来的な光景が繰り広げられる、ホログラムのモニター、人々の耳にはアンテナ。

「はあ」

 彼の住む未来では誰もが耳にアンテナをつけて能力の拡張をしている。だがこの拡張にも上限があるし“平等”をうたいながら、だれもが同じだけ能力を拡張するので、もともと能力がある人はさらに能力を手に入れるので実際不平等なのだ。

 


 そして青年は目的の貧しい国についた。ガイドをやとっていて、ガイドとともに、貧しい国のさらに貧しいジャングルの奥へ向かう。

「珍しいですねえ、こんな貧乏な国、それもあの貧乏な村へ人がくるとは」

「いえ、聞いたのですよ“点数を競わない村”だと」

 そう、もはやありとあらゆる民族や部族などもほとんどが近未来化したこの時代には、アンテナをつけてない人の方が珍しい、彼はアンテナを外していった。

「少し、自分探しを」


 やがて村にたどり着く、初日、村の人々は快く迎え入れてくれた。お土産の菓子を喜んでくれたし、数日とまってもかまわないという。彼らのおおらかな性格に安堵して、青年はその日、あてがわれた大家族の屋根裏一部屋で眠った。


 目を覚ます、と彼は驚いた。だれもが昨日とはうってかわって怠惰に寝ころんだり、休んだりしていて、だれも何もしようとはしない。

「なんだ、これは」

「村長がせかすとやっと数人が起きだす始末」

 村長の息子が名乗り出た。

「私と一緒に狩りにこい、旅人の務めだ」

 そして二人で狩りに、生まれて初めての野生動物の狩り、体力がもっていかれる上に収穫がない。そして村長の息子に叱られる。

「なんでこんなに!!もう10匹も魚をつったし、モグラや鳥もとれたじゃないか!」

 だが息子は

「まだ足りない、村を養うには、もっといる」

 というばかりだった。


かえって長老にこの労働の比較のおかしさを主張しても、長老は

「この村は、誰もが支えあう村だ」 

というばかり。


 ガイドも近くに住んでいて、翻訳を務めてくれたのでガイドに本音を話す。

「ここは自分の望んだような場所ではなかった」

 ガイドはいう

「半面教師にすればいい、もし明日もだめなら、私がもっと豊かな場所を案内しよう」

 というので納得して、その日は休んだ。


 朝、長老にわけをきいた。ここは“人が点数を比べない、人がきそわない村”ときいたのにどうして、こんなに怠惰なのか。と長老は

「それが本来の姿なのではないか」

 と答えた。彼は悔しくなり、その日は人一倍働いた。と、村人たちはその日の収穫と、彼がつくった別世界の料理に喜んだ。彼はまんざらではなかった。


 翌々日。その日は長老の息子もほとんど働かず、彼だけがほとんど仕事をした。彼は内心、どうしたんだこの村は、と思いながらも、人一倍働いた。猛暑の中、何度も倒れそうになり、雨がふり、また蒸し暑くなる、彼は頭が熱っぽいのを感じ、ジャングルの鬱蒼とした中で、パタン、と倒れた。その倒れる最中に彼は、この村に来た理由と“人と人が比べない”という事がいかに不平等を生み出すのか、自分が期待していたものに裏切られ、自分は死ぬのか、そんな自分が哀れであったし笑えても来た。そもそも、死を選ぶかこのまま生きるかを人まかせにした罰が当たったのかもしれないとも思った。


 目を覚ますを、周りを囲う人、人、彼は何か巨大で丈夫な植物の葉であんだ物の上にのせられていた。そして大勢の村人が彼を運んでいるらしかった。村では、にぎやかな声がする、あれだけ怠惰で元気のなかった子供たちがはしゃいでいる声もする。


 おろされた彼は、長老の前へ、長老は焚火の前におり、いくつもの肉や魚の保存食などを手に取り、彼にさしだした。彼はとてもおいしそうにそれをたべた。それだけではなく、その日とその次の日の翌日まで彼は熱心に介抱され、あれだけ怠けていた村人たちが一斉に働きだしたのだ。

「これは、こういう風にして、必要な時だけ働く暮らしなのか?」

 村長は首を振った。

「私の村はもともと活気のある村だ、人と人を比べず、人ができる事を担わせる、あなたにひどい仕打ちをしたのは、この村の通過儀礼を経験してほしかったからだ、なにせここに物見遊山できて、平気で科学器具を使って楽をする人間も多い、だからそういう人間に諦めてもらうために、こうした導入の儀式をしている、ここ数日あなたにだけ重荷を背負わせたのは、この村の通過儀礼だ、これだけ苦しい思いをしても、科学や文明の力に染まらず、この村に貢献できるかという、あなたはとても悩んでいる人だときいた、そこで私たちは、もしあなたが望むのなら、この村の仲間に引き入れようとしたのだ、あなたは、この数日の試練に値を上げず耐えた、この村の住人にふさわしい」

 彼は涙がこぼれた。そして、その翌日と翌々日、すっかり回復した彼は、比べない村の素晴らしいところをみた。病気の人を誰も悪くいわないし、食べ物を独占しないし、できない人を悪くいわない。

 彼は、こんな幸福な村ならば試練があってもやむなしと思うのだった。


 やがて彼は滞在を終える。村人たちは、いつでも戻ってきてくれていいといってくれた。彼は彼の楽園をみつけ、やがて日常生活にもどっても、無理しすぎず、人任せすぎない、バランスのいい仕事と日々をおくるようになったそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

近未来と抵抗の村。 ボウガ @yumieimaru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る