第10話 マップ
その日の夜、古いスマホに有谷から画像が届いた。
画像は二枚。
どちらの画像もマップで、現在地だろう場所には赤いピンが刺さっている。
一枚目は、有谷が滞在すると言われている白岩の従姉妹の岩井家の場所。
二枚目は、しめ縄によって支えられている大岩がある洞窟の場所だ。
「よかった。マップが正常に表示されて……」
父にこの前買ってもらったデスクトップパソコンで画像のマップと同じ場所を見つける。衛星から見た村と公道も確認できた。
正確な情報が届いたということはなにかの超常的な力が働いているということはないだろう。
霊などが起こす超常現象と機械は相性が悪い。
廃墟に肝試しに行き、撮影した画像や映像に妙な乱れがあったりするのはそれが原因だ。マップが正常に表示されなかったり、車のナビがありえない道を指示したり、と。そのような可能性を考えていたが、その心配をする必要はなかったらしい。
あれだけおぞましい殺し方をしておいて、機械に影響を及ぼすものがなかったのか、それとも霊が影響を及ぼすことができない何かがあるのか。
例えば、神様とか。
「イワイ様、か」
最初の映像によると、有谷はイワイ様というものへの捧げものらしい。
俺は一階に降りた。居間では、父がテレビで心霊番組を見ながら「これはウソ、これもウソ」と披露されている心霊写真の吟味をしていた。
風呂上がりなのか、いつもは頭の後ろで結んでいる黒髪も、今は結ばれていない。参拝客もいないからか、優しそうな笑顔は今はなく、やる気のなさそうな顔で頬杖をついてテレビを見ていた。
どうせ、集中してテレビを見ているわけでもないだろうから、隣のキッチンで冷蔵庫を開けながら、その背中に声をかける。
「父さん、イワイっていう神様っている?」
「イワイ? うーん、
コップに麦茶を注ぎながら、俺は首を捻った。
有谷から送られてきた村の位置は、ここから車で一時間の場所だ。千葉なんて、車どころか新幹線を使っても一時間ではたどり着けない。それに、神宮で祀られている、ましてや古事記に出ているほどの大物の神が相手だとしたら、そもそも、俺のところに有谷からの未来の連絡は届いていないだろう。
「そういうのじゃないんだよな……」
俺の呟きに、テレビから目を離さない父がさらに答える。
「それなら、お祝い事の祝いから来た
「……」
お祝い。
そんな生易しいものだろうか、祝いは祝いでも、あれはまじない、呪いの類のまがまがしさを感じた。
とりあえず、父の口からそういう暗い方面の話が出なかったということは、白岩の両親の地元が祀っているイワイ様は、あの村特有の神様なのだろう。
特に今まで大きな被害が出ていなくて全国に知られていないだけか、徹底的に知っている者を排除しているから知る者がいないかは分からない。
「ありがとう、父さん」
「真博」
「ん?」
父は振り返らない。
「首を突っ込むのなら、引き際だけは見極めるんだぞ」
「……分かった」
背を向けると、父さんが「あ、これは本物だ」と口にした。
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