第4話 角のコンビニ『引き戻す音』

俺の元後輩はいなくなった。

そして、その入籍したばかりの奥さんもいなくなった。


二人が経営していたコンビニは、今ある在庫の分だけは売り切って後は一旦休業するという形にした。

従業員たちは二人が戻ってくると信じている。

二人がそれだけ信頼されているということだ。


俺たちは二人のそれぞれの先輩だ。

二人は大事に大事にしていた後輩なんだ。

大事で可愛い後輩である。


待ってろよ、きっと助けてやるから。


ところで、話はかわるが一応言っておく。

俺たちはそういう専門じゃないから。

探偵とか霊祓師とかじゃないから。


ないけどさ。


明らかに今回のこれってあれだろ。

霊的案件。別名ホラー。


出来れば昔馴染みの寺の息子に見てもらうのがはやかったんだけど…

ちょっと事情があってそいつとは会えないんだ。

ああ、これはまた別の話になるな。


だから、これは俺たち二人でなんとかするしかない。


まずは手近からだな。


不動産に行った。

コンビニの場所を貸していた不動産だ。


何も知らなかった。

そこの奴らは、本当にただ貸していただけだった。毎回、やけに早く返したがるなーと思う程度だったらしい。

そいつらは地元の、ここらの出身ではなく余所者だった。


とりあえず、見取り図だけぶんどってきた。

嫁さんが。

強い嫁さんを持って俺は幸せだze…


で、だ。

見取り図をじーーーっと見ると、一ヶ所だけ変な所があった。変な、空白。

そこがさ。


事務室

のパソコン

のちょうど真下


二人して言ったよ。

「これ、フラグだ」


店内放送はパソコンから流している。

まあ、実際は直接って訳でもないけどな。

でも店内放送が変だったんだから、まあ何かしら流してたパソコンにも~っていう安直な考えだ。


大体こういう場合は…

パソコンの真下の床が開く

→開いた

人が通れそうな空間が広がっている

→広がっている

行方不明中の二人の持ち物が落ちている

→男性の靴、キャラもののボールペン発見

何かが引き摺られた跡がある

→………ある。


多分さ。多分なんだけど。

二人ともここから引き摺られていったって考えるのが普通だよな。

うわ、隣にいる嫁さんがすっごく苦い顔してるよ。せっかく可愛い顔してるのに。


だが。ここで突撃をかます無謀な俺たちではありません。

事前調査は必要なのさ。


一旦開いた床をぱたんと閉じた。

俺たちは思い出す。調べてきたことを。

昔から経験してきたこの地元での体験を。


俺たちの地元は「桜ヶ原」という名前だ。

その名前の通り、桜にまつわる言い伝えとか伝承・怪談何てものがいくつもある。

実際に、俺たちはそのいくつもを体験している。

たまたま?否。

俺も嫁さんも、そしてあの日同じ「約束」を交わした仲間たちも。わかった上でその道を通ってきた。

通る道は選べないからな。

俺と嫁さんが選ばれた道がこれだっただけなんだ。

だから、今だって後悔はしていない。


でも、それに大切な後輩を巻き込むことは許さない。


さて、今回の「これ」もきっとその一つだろう。それっぽい話、あったっけ?


多分あれじゃない?

隣にいる嫁さんが目をしっかりと見て話し出す。


「死ねない桜」の話。

この地にあった数知れない桜の樹は、今では一本を残して姿を消した。

消えてしまった樹の中で一本だけ、中途半端な樹があった。

それが死ねない桜。

他の樹と同じようにその大木は切られ姿を消した


はずだった。


その樹のある場所は「たまたま」水がよく流れていて、根から水をひたすら吸収してしまう。

切っても切っても根っこが生きたままになり、死ねない状態で今でもどこかで生き続けている。


それだけだったらいいのだが。


その桜は貪欲だった。

豊かな水だけでは飽き足らず、肥料を欲した。


ゴハン ガ ホシイ


と。


その長い根を自在に操り、獲物をゆっくりと締め上げ、息が絶えたところでバラバラにして、根元に引きづり込んで、満足げに喰らい出したのだ。

その桜は。

慄(おのの)いた人々は、桜が満腹になって眠り始めた頃を見計らい埋めた。

というより、上に土やら石やら木材やらを被せ埋め立てたのだ。

桜が起きた頃には身動きが出来ない土の山の中。


それでも根は今だに水だけは吸い続けるので、死ぬことは出来ないままである。


これが「死ねない桜」の話ね。

たしか、小学校にあった地図の特別危険地域ってこの辺りじゃなかった?


Oh,記憶力のいい嫁さんを持って得したYo…

じゃなかった。

その「特別危険地域」って一ヶ所だけじゃなかったか?

つまり…ここが一番ヤバイ所ってことかよ。


なんでそんな簡単に貸し出すんだよ、不動産。

伝承甘く見んな。

不動産に今更怒ってもしょうがないので、現実を見よう。


その「死ねない桜」がこのコンビニの下にあったとして。

行方不明の人たちは桜のゴハンになったんだろうな。桜ごはんじゃないけど。


一回のゴハンにどれだけの時間と量が必要かはわからない。

けど、二人がまだ生きていると信じて。

このまま直に突撃したら俺たちもゴハンになること間違いなし。

なんせ相手は「死ねない」んだからな。


なので、ここで俺たちがすべきことはあれだ。

直談判と交換条件。

よっしゃ、いきますか。

さくら公園にある「最後の桜」姫のところへ。

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