ちっす、佐藤さん

第4話 佐藤『あのコンビニ・前編』

画面に砂嵐が流れる

砂嵐が治まる


「どうも。ホラー動画を探し隊、佐藤です」


佐藤です…佐藤です…佐藤です…

(という演出。エコーは自演)


「ホラー動画を探し続けてはやうん年。我ら隊員はとうとう自分でホラー動画制作に乗り出した」


ざざ…

砂嵐が一瞬流れる


「隊員ナンバー1、山田。

彼は、地元にあるとある廃病院にて実証実験を行った。

その後、彼は…」


ざざ…

砂嵐が一瞬流れる


ぱっ、と画面が切り替わる

白い壁を背に青年が笑って手を振っている

「どーもー!山田どぇーす!

みんな、元気かなー?

俺はねー


ぶつっ。

唐突に画面が切られる


「彼はいつも通り。」


声だけが黒い画面の動画に流れ続けている

コメントなしのテロップのみが白く浮かび上がっている


「俺の動画は、純粋ホラーを目指した。

とあるコンビニだった場所にカメラを仕掛けて録画した。

今回は前編だ。まずは、そのコンビニについて知ってもらいたい」


ざざ…

砂嵐が流れる

ゆっくりとタイトルが浮かぶ



『あの角のコンビニ』


白く浮かび上がった文字は、砂嵐に紛れて消えていった

そこからは淡々と佐藤の声が響き、同じ内容の文章が画面の上から下へゆっくりと流れていくだけであった


「地元にある、なんの変鉄もないコンビニ。そんな印象だった。

俺も何度か利用した。

いつもの角にあるコンビニ。

その場所はなぜか頻繁に店が代わる、出入りの多い所だった。


立地は悪くないはず。

車もそこそこ停められる分の駐車場だってあった。

でも、なぜかすぐに店が代わる。


またか、と思っていた時にそのコンビニに代わった。

24時間のどこにでもある名前のコンビニ。

初めて利用したとき、雰囲気のいい店だなと思った。品揃えも店内の広さも素晴らしいとは言えないものだったけど。

オーナーの人柄っていうのか、その人を中心にその店は回っていた。


丁度俺の友人が、オタクの引きこもりだったんだけど、そこでバイトを始めていた。


限定のおまけ付きの菓子だかドリンクだか、よく覚えていないがそれが欲しくてそのコンビニに付き合った。

行くと、直前の客が俺たちと同じ賞品を買い占めようとしてた。結構人気のあるアニメだったんで、幼稚園児から大人までの客層があったんだ。だから、大量に入荷してたんだけどさ。


販売初日だったのにその客は「あるだけ全部売れ」って言ってんの。

店員も他の客も「うざい客だ」って顔してるんだ。当然だよな。俺の友人も「あれはダメだ。他のとこ行こう」って出ようとしてた。


そこで出てきたのが、そのオーナー。どうするんだ?と思って俺は様子を見ていた。」


変わりなく動画は続いていく

ホラー動画とは思えない流れだ


有名な菓子と某アニメのファイル、ミニノート、メモ帳、付箋が画像で写し出された

商品名は隠されている


「オーナーは頭を下げて全部は売れないってことを言っていた。それでも客は諦めない。でも、オーナーも引き下がらない。その客の対応はオーナーだけでやっていたんだ。他の店員は通常業務。


おいおい、いいのかよ。大丈夫なのかよ。そう思いながら俺は見ていた。

そうしたら、オーナーが時間をくれるなら今ある分と同じ量を用意するって言い出したんだ。客はそれならって妥協して、可能な個数だけ買っていった。夕方来るって言ってな。その時の時間は朝7時。コンビニの朝ピークの忙しい時間だ。


オーナーは一人の女性、オーナーの次に偉い店長だろうな、に何か言って外に出ていった。

その場はそれで終わり。俺たちはお菓子を買って「大変だったな」の一言で終わらせた。


で、俺は同日の夕方そのコンビニに2度目の来店をした。家の冷蔵庫が空だったからだ。そしたら、丁度いた。朝の客だ。


だが、朝はあんなにイライラした顔をしていたのに、その時は申し訳ないという顔をしていた。その手には件の菓子が山盛りだ。


俺はその件がどうやって終わったのか知らなかった。

友人がそのコンビニにバイトしに行くようになるまではな。

友人も気になっていたようで、後日オーナーに聞いたらしい。


簡単に言うと、オーナーが他の店をいくつか回って買ってきたそうだ。代金はオーナー自身の財布から。様は先払いだ。

客の方も、実はいいやつだったらしい。息子の入っている野球クラブが地区優勝したとかで、ご褒美としてチーム全員が共通して好きなアニメのおまけを買ってやりたかったらしい。


俺が驚いたのは、半日ほどでオーナーが一人で対応したということだった。多分、普通はしないやり方なんだろう。オーナーは友人に口止めしたそうだ。


缶コーヒーとチョコで。


口止めされていないぞ?


まあ、オーナーなら出来ると他の店員から信頼されてもいたんだろうな。


そんなオーナーがいる店。」


一旦、BGMが止む

ざざ…

一瞬砂嵐が入る

背景は夕暮れの空へ、BGMはゆっくりとした、だがさっきより暗めの音楽へと代わった


「でもある日、その友人から信じられないことを聞いた。


オーナーが失踪した。


しかも、失踪する2日前に入籍していたのに、だ。

婚約者はあの女性の店長。


その頃、俺の友人は脱引きこもり(ただし、オタクは顕在)していた。バイトも長期間続けれていたんで、真面目さ(オタクの度)が評価された。


評価されて、時間別のシフトリーダーを任されるほど。


そんな友人から聞いた情報なんで確かだろう。


友人は空いたオーナーの分も時間を増やした。

それから聞いた話なんだが。

夜勤に入るようになった婚約者が、ある時間の店内放送が変になるらしい。


無音になったり

何か引きずる音が聞こえたり



友人がいる時間はそんなことないそうだ。

もちろん、他の店員の時間も。

ただ、その婚約者だけの時間にそんなことが起こるらしい


それからしばらく経って」


画面一面にガラスの開閉式ドアが写し出される

(バン!)という音と共に、そのドアに貼り紙がされる

『諸事情のためにしばらく休業します』


「婚約者も行方不明になった」


再び背景が黒くなる


「なんでそうなったのかは誰も知らないまま、そのコンビニは休業となった。


そして、しばらくして」


同じようにガラスの開閉式ドアが写し出される

(ぽん)という音と共に、そのドアに貼り紙がされる

『当店は移店となりました』


再び背景が黒くなる


「だから、その場所にはもう何の店も入っていない。ただの空き店舗となっているようだ。


そんな、元コンビニの場所」


ザーッと、砂嵐が流れる


ピタリと止まり、1台のカメラが写される


「友人の話だと、オーナーたちは無事に戻ってきたらしい。

戻ってきてすぐに、店員たちに頭を下げて謝罪したそうだ。

そして、すぐに店の場所を変えると言い出したらしい。


そのオーナーは今でもどこかでコンビニを続けているそうだ。もちろん、その店には俺の友人が働いている。


後日談となるその話を友人に聞かされながら、俺はそいつに1枚の紙を渡された。それは、コンビニの見取り図だった」


背景が白くなる


「どこにどういう商品があるか覚えるために、友人が自分で書いた見取り図。どこに何があるか、細かく書かれていた。

その中に数ヶ所、×印がついていた」


白い背景の数ヶ所に×がつく


「これは、防犯カメラが設置されていた場所だ」


今回、俺はこの場所にカメラを設置した。もちろん、音も録音している。

全部の場所には無理だったから」


画面に手が写る

長い指がゆっくりと×印を3つ差す


「ここと、ここと、ここ。

入り口と、店の後ろから前に向かってと、事務所。この3ヶ所に設置した。期間は3日間。

当時のオーナーの婚約者が勤務していた時間を含めて録画を行う。

回収後、早回しで実況を行う。


何が写っていても後悔するなよ?


一旦、ここで切る」


ザーッっと砂嵐が流れる中、動画が終了する

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