第二章:百合の母の息子・雪人くん
第12話:雪人のアルバイト(前編
「じゃ、いってきます」
「いってらっしゃ~い」
「雪人、美里、気を付けてぇ~」
日曜日の午後。
昼食の後、美里の運転する車で、雪人はアルバイトに出かける。
母二人の経営する会社の仕事を手伝う。
母達の会社は、新興のアパレル業。
十代の『少女向け』のファッションを中心に、卸の他、一部製造も。
小さいながらアンテナショップも展開。
雪枝が大学時代に友人と共に興し、後に美里を加えごく少人数で運営している。
雪人は、中学の頃から手伝いとして、その『宣伝広告用のモデル』をしている。
製造、販売する商品のカタログに掲載する写真のモデル。
「ボクよりアカネの方が適任なのに……」
手伝いながらも、雪人はそんな風に思っているが。
アカネは、と、言うと。
『写真に撮られて曝されるの、ヤ』
とのことで、参加していない。
「じゃ、雪人ちゃん、よろしくね。終わり頃に迎えに来るから、電話して頂戴」
「うん、ありがと、美里ママ。いってきます」
美里に現地まで送ってもらって。
「おはようございます」
指定された部屋に入室する、雪人。
「おはよー、雪人くん、待ってたよー」
母・雪枝の友人で、起業のメンバーの一人の女性。
専門のカメラマンを雇うと高いから、と、自ら撮影チームを作って、広告宣伝用の素材を作成している、らしい。
「メイクするから、こっち来て」
もう一人。メイク担当の別の女性に呼ばれる。
こちらも専門家ではなく、社員の一人、らしい。
「よろしくお願いします」
メイク用の鏡の前に着席。
「んもー、雪人くんは、お堅いんだから。知らない仲じゃないんだし、もっとフレンドリーで良いのよ?」
「いえ、歳上の方ですし……」
「まぁ、そこが雪人くんの良いトコロでもあるけどねー」
ぱふぱふ。
言いながらも、雪人にメイクを始める。
そのメイクも終わり、撮影用の衣装に着替える。
「先ずは、コレね。ウィッグはこれを」
「……」
渡されたのは、花柄のワンピースとパット入りのブラ、それに黒いロングのウィッグ。
はぁ……と、ため息交じりにもそれを受け取って、つい立てで作られた簡易更衣室へ。
脱ぎ脱ぎ。
中学時代から始めたアルバイト。
慣れたくはないなと思いながらも、慣れれた手つきで。
普段は着る事もないブラとワンピースを装着。
ウィッグも装着して、姿見でチェック。
「こんなもんかな?」
雪人の、アルバイト、本番、スタート。
(つづく)
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