婚約破棄された令嬢を御見送りして、さぁ、私たちは婚約破棄パーティーの続きを楽しみましょ。最後にざまぁをご用意しておりますので

悟房 勢

第1話 名演技


「キャロル・アーサーズ! 今この場で、お前との婚約を破棄する」


主催者ジュ―ド・ゴードン公爵令息ののろけ話を期待していた招待客の表情はどれも戸惑っていた。キャロル・アーサーズ侯爵令嬢との婚約披露パーティーでの第一声がそれだったからだ。


王国全土から未婚の令息令嬢が集められていた。ジュード・ゴードンの父は執政でした。招待客の欠席は皆無だった。


キャロルは令息令嬢の視線を一斉に浴びていた。顔を真っ赤に染め、大きな青い瞳をパチクリさせている。


物音ひとつ立っていない。誰かが、食べていたアイスクリームのスプーンを落とした。カン、カラカラとスプーンが床に転がる音。


令息令嬢たちは我に返った。皆、キャロルを取り巻くように集まっていた。それが蜘蛛の子を散らすように一斉にキャロルから遠ざかる。令息令嬢たちが作った大きな円の中央にキャロル・アーサーズは一人置き去りになっていた。


ポツンと一人立って、キャロルは令息令嬢たちに視線を巡らせた。次の瞬間、ああっと声を上げ、出口に向かった。うつむき、ハンカチで涙を拭くような仕草で、足早に会場をあとにした。


私たちは彼女を追った。私たちというのは、わたくし、ソニア・バニスターと、アレクシス・ウォルトンです。


会場を出ると、キャロルとニコラス・ガザード侯爵令息が抱き合ってた。ニコラスは私たちに気付き、キャロルを自分の馬車に乗せると私たちの方へと向かって来た。


「アレクシス、ありがとう。君には一生の恩が出来た。僕は誓うよ。我がガザード家は未来永劫、ウォルトン家の旗手となり付き従うと」


アレクシスは苦笑いで私に視線を送る。私はうなずいて見せてやった。アレクシスは安心したのかニコラスと握手をし、よかったなとその肩をポンポンと叩いた。


二人は満面な笑みを交わしていた。待たせるのはいけない、という私の言葉でニコラスは馬車に飛び乗った。馬車は二人を乗せて、ゴードン邸から消えて行った。


「彼女、名演技だったわね」

「ああ。それもそうだが、幸せそうだった」


美男子のアレクシスがうらやましそうに、視線を遠くに向けている。くすりと笑ってしまった。ちょっと可笑しい。


「用も済んだし、君はもう帰るんだろ? 僕もお供しようと思うが」

「いいえ。私は最後までいるつもりなのよ」


「え? えええ! なんで! 君が? 残る?」

「そんなに驚かなくてもいいじゃない。失礼よ。それともなに? あなた一人で帰る?」


「いやだ。残る」







さかのぼること1カ月。私は庭で花終わりの摘心てきしんにいそしんでいた。


貴族の令嬢がやることではなかったが、どうしても四角四面な、いかにも手入れしましたよ的なだだっ広い庭が嫌いだった。私は屋敷の庭の一角を貰い、季節ごとに違う花が咲く、宿根草のナチュラルガーデンを作っていた。


「やっぱり君は花畑がにあうなぁ」


アレクシスの声だ。アレクシスはカレッジの帰りには必ず私の屋敷によっていく。振り向かずとも分かる。今日の彼は上機嫌だ。


「じゃましないでね」


早速、釘を刺す。横に居座られて、ごちゃごちゃ話しかけられては集中できない。調子に乗らせないためにも最初からギュッと頭を押さえつけとかないと今日終わる仕事も終わらなくなってしまう。


「これ、とどいたろ」


私の横にもう居座っている。しかも、目の前でゲストカードをちらつかせている。ふにゃふにゃ動くカードで花がまったく見えない。


「ちょっとぉ、じゃましないでって言ったでしょうよ」


振り向くとアレクシスの顔があった。ブラウンの透き通るような瞳であった。髪はベージュでサラサラと風になびいている。女性に大人気で、しかも王国随一の名家である。カレッジの成績も飛び抜けていて、容姿共々彼にかなう令息はいないと言っても過言ではない。


因みに私はカレッジを結構、いや、ほとんど休んでいる。理由は必要ないから。

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