第39話・とある魔女の禁書目録

 その名前から期待していなかった【しもべの服】つまりはロングスカートのメイド服にルチアが納得したので、装備はこれに落ち着いた。

 そもそも俺がカンストだから、装備のステータスを気にする必要はないんだった。見た目だけを重視すればいい。

 うん、可愛いぞ、俺。えへへ。


 鼻に詰め物をしたホビット親父を部屋に入れて、身体を作ってもらったお礼を兼ねて頼みを聞いた。

 するとミアは吊り目を丸くし、ルチアは苦々しく顔を歪め、ヒノはフンスフンスを続けていた。この身体から理由は察していたが、一番知識のない俺が代表して尋ねる。


「世界樹に行って欲しい?」

「樹液を使い切っちまったから、取ってきて欲しいんだ。この老いぼれには耐えられねぇ、長く険しい旅なんだ。まぁ、無理にとは言わねぇが……」

「世界樹! パーティーのみんなが、行きたいって言ってたにゃあ!」

 ミアが嬉しそうに両手を上げて、ぴょんこぴょんこと飛び跳ねていた。女神様側の世界では価値ある場所のようである。


「ミア、世界樹って、どんなのだ?」

「とってもとっても大っきい神聖な木だにゃ!」

 ルチアは俺とミアにチラッチラッと目をやった。その仕草から、思考が手に取るように見えてくる。


(世界樹かぁ……行きたくないなぁ。でも、すぐに死んじゃうミアを守らないといけないし、私の等身大人形1分の1フィギュアに憑依しているレイジィ見張らないとだし、そうよ、私の等身大人形1分の1フィギュアが襲われるかも知れない。あああああ私自身じゃないのに、それは嫌だなぁ。カンストでも戦闘経験がないレイジィだから、やられちゃうかも知れないし。やっぱりここは……)


「行こう、世界樹」

「わぁい、わぁい、みんなで行くにゃ!」

「その世界樹に、何があるんだ?」

 その質問は、ミアが歓喜している理由と、ルチアがおののいている理由を併せていた。何のために喜んで何のために恐れるのか、わからないなんて、そんなのは嫌だからだ。


「てっぺんは天界につながっているにゃ! 登っていけば、女神様に会えるかも知れないにゃ!」  

「それで、根っこが冥界につながっているのよ」

 冥界とつながっているのなら、死を司る魔族とは無縁ではないと思うが……。「神聖な」というのが魔女のルチアにとってネックになのか。


「本当にいいのか? ルチア」

「うん、いいよ。みんなで行こう」

 ルチアの覚悟が伝わった。これに仲間の俺たちが応えなくて、どうする。

 ……と、俺の監視も含まれているのか。


「親父さん、世界樹の樹液を取ってくるよ。待っていてくれ」

「すまねぇな。惜しみなく使ったが、本当に貴重な品なんだ」

 真剣な職人の眼差しに、どんな苦難も乗り越えてみせると決意を固めた。貴重な品を、俺だけのために使ってくれたんだ。これくらいのこと、何てことないさ。


「それで、世界樹の樹液を何に使うのかにゃ?」

等身大人形1分の1フィギュアの木型から、もう一体作る。俺様専用ドールが欲しい」

「この色ボケジジイ!!」


 ルチアの攻撃、ホビット親父は詰め物を飛ばして気絶した。


 *  *  *


 ホビットの家を出て、めちゃめちゃでっかい木を探すため、空を見回す。入道雲が天を突く、あれが世界樹を隠しているらしい。

「……遠いな……」

「並の人間ならば、一生に一度の旅でござる。お主らの能力があっても、容易くない。フンスフンス」

 硬い表情をしたヒノは、餞別にとミアにスマホを渡してくれた。


「あたしにくれるのかにゃ!?」

「ルチア、水晶玉は持っておろう? 万が一はぐれてしまっても、これがあればつながれる」

「本当にいいのか? ヒノは困らないのか?」

「安心せい、拙者にはスマホで話す友達はおらぬ」


 屈託のない微笑みをたたえ、悲しい事実をヒノは晒した。基本的にボッチの引きこもりだから、まったく悲観していない。

 ああ、胸が痛い。神々しい微笑みが俺たちの胸をかきむしる。いすゞとは、そういう仲じゃなかったのか、もう泣きたい。


「それにアレ✕スリは、もっと大きいので視聴しておる。いすゞとは、それで話すから良きに計らえ」

 要するにタブレットだ。いすゞとは仲良しだったのか、安心した。これからもふたりでデュフデュフデュフフンスフンスとやっていてくれ。


「厳しい旅に御座候。大きいスマホで、様子を見てもよいでござるか? フンスフンスフンスフンス」

「心配してくれて、ありがとうにゃ。あたしは全然構わないにゃ」

 ミア、それは危険だぞ。世界樹から帰ってきたらミア✕チアとかチア✕チアとかの百合同人誌が、ちまたに溢れ返っているかも知れない。その証拠に、ヒノの鼻息がめっちゃ荒い。


「ありがとう。困ったときに電話……じゃないな、交信させてもらうよ」

 ヒノは、とってもガッカリしていた。創作意欲を削いで、すまんな。そんな本をルチアが知ったら、怒り狂って世界の破滅を招いてしまう。半神半人として、世界平和のために我慢してくれ。


「わぁい、さっそく使ってみるにゃ!」

 ミアは、スマホの画面に浮かび上がったアプリの中から、赤地に白の三角形をタップしてみた。


『おぉほぅれぇへぃはジャィアンアンアンアンアン……レイジィ、ィ、ィ、ィ、ィ、何をさせるんですか、か、か、か、か……』


「……これ、流行っているのか?」

「たまたまにござる。ブックマークもお気に入り登録も、たまたまにござる。では、拙者は新たなる本を作らねばならぬ。さらばじゃ、フンスフンス」

 ヒノはスチャッと腕を上げ、その場を足早に立ち去った。さすが半神半人、逃げ足と強引な打ち切りは女神様譲りだ。


 きっと、家に帰ったそばからミア✕チア百合漫画を描くのだろう。世界の破滅を招くとしても、ヒノは描くに違いない。

 絶対に、ルチアの目に触れないようにしなければ……。

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