『誰もいない教室から聴こえてくるピアノの謎3』

 場所は、ピアノのある特別活動室。

 私は中央にあるグランドピアノの前に座り、タブレットを操作して、

 すると、指が触れていないにも関わらず、鍵盤が自動的に降り、例の連弾の曲を演奏し始めた。


「すごい! ピアノが勝手に音を出してます!」


「自動演奏って言うの。予め決められたタイミングで鍵盤が降りて音を出すの。まあ、見れば分かると思うけど、勝手に演奏してくれるのよ」


「これは、本当に透明人間が弾いてるみたいですね」


 司くんは、鍵盤が勝手に凹む様子を不思議そうに見ていた。

 要するに、透明人間の正体はピアノ自身であったと。

 音楽プレイヤーとは違い、そこにあって当然なものであり、あっても不思議じゃないものだから、疑わなかった。

 プロ並みに上手な理由や、糺ノ森ただすのもり先輩の機械的に正確という感想も、これなら納得だ。

 だって機械だもの。


「なるほど、自動演奏なら二人居なくても連弾の曲も弾けますね」


 司くんの言う通りだ。これなら指の数も関係ない。


「多分、自動演奏の調整中に調整している人––––多分音楽の先生ね。で、その音楽の先生が教室を離れて、その時に市子と糺ノ森ただすのもり先輩が来たんだと思うわ」


 私の解説に司くんが質問をしてきた。


「でも、それならどうして毎晩自動演奏をするんですかね?」


 最もな意見だ。ただ、これはある程度予想は付く。


「いい機会だから、新しい曲を入れてるのだと思うわ。アニメの曲が入ってたくらいだしね。あとは、昼間にやったら授業の邪魔だし、ここは生徒会室の真下にあるから、私の仕事の邪魔をしないように、下校時間の後にやってくれてたんだと思うわ」


 私はかなり遅くまで残って仕事をしてるので、下校時刻を過ぎた後じゃないと、迷惑になると思い、やらなかったのだろう。


「音羽ちゃん、曲はどうやって入れるんですか?」


「ピアノを弾いたら内部の機械が記憶してくれるの。あとはプロが演奏した楽譜を購入したりとか、コード進行を読み取って演奏したりとか、まあ色々あるわ」


 さて、謎も解けたことだし、自動演奏を止めようとしたのだけれど、司くんが何か気になる様子でタブレットの画面を見ていた。


「どうしたのかしら?」


「あの、会長さん。なんかこの楽譜、薄くなくないですか?」


「薄い? 変な感想ね……」


 音が小さいとかなら分かるけど、薄い? 私は司くんからタブレットを借り受け、楽譜を見てみる。


「これ、連弾の片方しか入ってないわね」


 多分、連弾の練習用なのだと思う。ピアノに連弾の片方を弾いてもらい、自分がもう片方を演奏する。そうすれば、一人で連弾の練習が出来る。


「でも、音羽ちゃん……これ……」


 市子が私の裾を掴み、恐々とピアノを指差した。



 市子の言う通り。

 ピアノは。

 ピアノは間違いなく、連弾の曲を。

 二重奏の音を奏でている。

 このタブレットに入力されている楽譜だけでは、この音色にならない。


 私たちは顔を見合わせ、一瞬にして教室を後にした。

 今日寝る時に市子が部屋を訪ねて来ても、私は文句を言うつもりはない。

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