『誰もいない教室から聴こえてくるピアノの謎1』
「誰も居ない教室から、ピアノの演奏が聴こえて来たんです!」
生徒会室に入って来た市子は、興奮気味にそう
全く、学校の七不思議じゃないんだからそんなのありえないでしょ。
はい、無視。
今日は土曜日、時刻はお昼前。
そう、私は休日出勤ならぬ、休日登校をして、生徒会職務に当たっている。
全寮制というのは、常に学園内にいるようなものなので、休日登校のハードルがとても低いように思える。
だからと言って、休みの日に登校して、仕事をするのは決して好ましいわけではないが––––今日やらないと間に合わない仕事がいくつかあるので、仕方がない。
それに今日は、頼りになる会計が休日返上で来てくれたのだから、溜まっていた仕事を一気に片付けないといけない。
なのにだ。
市子ときたらいつも通り邪魔をしてくる。
「ピアノの音がしたんです!」
司くんは、市子の主張に耳を傾け(聞かなくていいのに)、それから、何かを思い出したように話し始めた。
「その話、噂ですけど、自分も聞いたことがありますよ。自主トレでランニングをしている複数の生徒が聴いたことあるって、不気味がってます」
私は作業中の手を止め、司くんに
「その話、詳しく聞かせてもらえるかしら?」
いつもなら市子のおバカに付き合っている余裕はないのだけれど、学内で噂になっているとなれば、聞かないわけにもいかない。
司くんは、「あくまで自分が聞いた話ですが」と前置きをしてから、
「なんでも、夜中にピアノの演奏が聴こえるそうなんです」
「具体的には何時くらいか分かってるの?」
「二十時くらいだと聞きました」
「ふぅん、確かに一般生徒の下校時間は過ぎてるわね」
私もその時間まで、生徒会室で業務に当たっている。
本当はもう少し残りたいんだけど、一九時に帰らないと寮の晩御飯に間に合わないのよねぇ。
「で、市子もそれを聴いたのよね」
「そうです!」
だが、問題のピアノの話を
「まずは、なんでそんな時間まで学校にいたの?」
「あ、えとですね、忘れものを取りに行ったんです。ちゃんとアゲハさんにも許可を取りましたよ」
全寮制というのは、こういう時に便利だと思う。
ただ、仮にそうだとしても注意する必要がある。
「そういう時は、私にも声をかけなさい」
理由は、市子一人で行かせるなんて心配だから。
もちろん、危険だからという意味でだけれど、市子が何を
「でも、音羽ちゃん寝てましたよね」
「……そうだったわ」
昨日は妙に眠くて、晩ご飯の後すぐにベッドに入ってしまった。
市子は夕食後、私の部屋で過ごし、そのまま一緒に寝ることが多いので(迷惑だ)、昨日もそうしようとしたのだろうけど(一応市子に合鍵を渡してある)、私が眠っていたので、市子なりに気を使ってくれたのだろう。
「話を続けても構いませんか?」
「構わないわ」
市子は「こほんっ」と咳払いをしてから、話を続ける。
「学校に到着した所で、
「あー、コンクール近いものね」
糺ノ森みたら。美術委員長にして、物腰も柔らかく、人望のある先輩だ。
そんな糺ノ森先輩はピアノをやっているのだけれど、コンクールが近くなると、かなり遅くまで残って練習していると聞いている。
お嬢様学校なので、ピアノを弾ける生徒はかなり多いのだけれど––––その中でも飛び抜けて上手いのが、糺ノ森先輩であり、実際何回も賞を取っているような実力者だ。
お昼休みに生徒のオーダーを聞いて、ピアノを弾いているのを見たことがあるのだけれど、意外とアニメの曲とかも弾けちゃったりする。
本人曰く、一度聴けば弾けるとかなんとか。
「それで糺ノ森先輩も、私の忘れ物を取りに行くのに付き合ってくれることになりまして、一緒に来てくれたんです」
「あの人は面倒見がいいものね」
あと多分私と同じ理由だと思う。見張り的な理由で。
「それで目的の物を手に入れた帰り道、唐突にピアノの音が聴こえてきました」
「音楽室かしら?」
「特別活動室です」
「ああ、あの広いところね」
特別活動室の広さは、大体教室を二つ縦に繋げたくらいだ。特別活動室という名前の通り、特定の目的を持たないだだっ広い教室という感じで、文化祭や体育祭の準備をする際は大活躍する教室でもある。
ちなみに、この生徒会室の真下にある。
で、問題はなんでそんな教室にピアノがあるかなのだけれど、その理由は司くんが説明してくれた。
「確か、音楽室は現在工事中との事なので、音楽室のピアノはその教室に運ばれてますね」
流石、頼りになる。
逆に全く頼りにならない方が小首を傾げた。
「音羽ちゃん、もう一つ疑問があるのですが……」
「なぁに?」
「どのように音楽室からピアノを外に出したのでしょうか? ドアからですと大き過ぎて出せませんし、窓からなんてとても無理ですよね?」
「ああ、それね」
市子の言いたい事は分かる。グランドピアノのサイズは、音楽室の扉よりも大きいし、窓から出そうにも、グランドピアノの方が窓よりも大きいし、何より音楽室は四階にあるので、出せたとしても降ろせない。
ただ、これはピアノに少しでも詳しければ簡単に分かることだ。
「ピアノってね、分解出来るのよ」
「あ、なるほど! 分解してから、外に運び出したんですね!」
「多分、工事の間は邪魔だから分解して、別の教室に運んだ––––って所でしょうね」
「じゃあ、あのピアノは音楽室のものになるんですね」
「その口振りからして、現物を見に行ったのね」
「そうです、糺ノ森先輩と音がする方へ向かいまして、特別活動室にたどり着きました」
「で、ピアノの演奏が聴こえたと」
「とても上手かったです!」
市子の意見に司くんも同意する。
「それは自分も聞いてます、プロ並みに上手かったと」
この時点で、犯人は絞れそうなものだけれど。
まずは、糺ノ森先輩。プロ並みに上手いと言ったら一番最初に名前が上がる人だが、市子の隣にいたのでありえない。
次に、音楽の先生。
名門校の音楽教諭なだけはあり、間違いなく上手い。
んー、現時点ではこちらが一番怪しいと考えていいはずだ。
「それと、もう一つ」
司くんは、意味ありげな表情で追加情報を言う。
「まるで連弾のようだったと」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます