ガリン

 なんだか、ドルジとランナは機嫌が悪そうだ。ドルジの性格を考えればわからなくもない。意外なのはランナのほうだ、あれほど他人に慈悲をかけることなどない。そもそももっともこのパーティで慈悲深いのはガリンである。そのガリンが、初めてパーティから追放しようともったのがエラグという腰抜けである。


「……なの、なんなのよ」

「……」

 小言のようなものをつぶやくランナと、それを聞かないふりをするドルジ、しかし幾度目かでガリンもへきえきしていたころ、ドルジがふりむいて叫んだ。

「いい加減にしろ!!いいたいことがあるならはっきりいえ」

 一瞬ランナはためらったが、片手でもう片方の肘をつかんで、戸惑いながらも答える。

「……私たちのやり方……これでいいの」

「ッ……」

 一瞬、ドルジはたじろいだ。


 そこで、ガリンは昔の事を思い出したのだった。かつて、その巨体と何をいっているか伝わりづらい喋りから、村で嫌われものとなっていたガリン。力も強いから、いじめっこを返り討ちにすることもあったが、力加減がわからなかっただけだった。成長するにつれ、周囲のだれもから化け物扱いされ、農具もふれるだけで壊すので石を投げられ、村の端っこに村八分にされ、16になる頃には村の役立たずで厄介者ということで村をおいだされた。その時もずっと考えていたのだ、人にやさしくしたい。優しくされたい。だが人との距離を詰めようとするたびに、人は彼を恐れた。


 それから勇気を出して村からでると、少し違う世界がみえた、力の使い方も徐々に覚えたし、怒られながらも、奇異の目で見られながらも、都会の人々はめずらしいものにめがなかった、ある種その見た目で人気になったのだ。

「もう、自分のような思いをする人間がでないように」

 そう考えたガリンは、様々な職業を経て、もっとも自分に会い、役に立てる職業である冒険者を選んだ。これならば、多少弱い人間でも守り、人助けをできる。そう思ったのだ。

“誰一人、見捨てないように”

 そうして立ち上げたパーティだったが、前途多難だった。初め、村での扱いと同等のものを受けたこともあったし、すぐにパーティ解散することはざらだった。自分に向いている職業でも自分の不得意な事が足を引っ張るなんて……そんなときに、であったのが二人だった。まず、ランナ……器用貧乏という感じで、なんでもこなそうとしていたが、すぐに彼女が弓の才能があると見抜いて教えたのはガリンだ。彼女が初めて自分を信頼してくれたのは、自分の体に卑しい目を向けなかったからだといっていた。いつもそんな目でみられる、だから彼女は、何でもこなそうとあがいて自分の才能を見つけられなかったのだ。

 今でも彼女の才能を見抜いたときにみせた笑顔が忘れられない。彼女は美しく清純な少女そのものだった。


 そして、ドルジ、ナルシストだが、実は小心者。だが二人はそれによって仲が良くなったといっても過言でもない、彼の間の抜けたこけおどしのような自信。しかし、実際人の注目が集まると彼は確かに真価を発揮した。彼のナルシズムは人から嫌われたが、彼のずばぬけたそれへの信念は、ガリンに自信を持つことの重要さを教えてくれた。


 この二人とパーティを組んでから何度も紆余曲折があったが、危機があるたびに彼らは自分を励まし、やがて誓いを立てた。

“誰一人見捨てないパーティ”

 という誓いを。


 それからは人にどんなにけなされようと怪物扱いされようと、彼らがいたから、ガリンは強くいられたのだ。彼らとなら、夢をかなえられる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る