夢をかなえられず哀れな青春を送った俺が転生して信頼できる仲間を見つけるまで。
ボウガ
嫌われ者。
嫌われ者の自覚はあった。確かにあらゆる悪口や陰口、不満を言われる道理はある。なぜなら大事な時に必ず逃げ出すからだ。けれどそれも当然だと思う、自分は自分のステータスをよく自覚しているからだ。でもどこかで、この二つのスキルが役に立つ時が来るんじゃないかと思っていた。
何度同じ失敗を繰り返しただろう。ダンジョンに入ってボスがあと少しで倒せそうなときにビビリが発動して逃げて、パーティのバランスが崩れパーティ崩壊してボスが倒せず逃げ帰ったり、ここぞという場面で剣をふるったら、それがすかして、敵ではなくて味方の盾に切りつけてしまったり。明らかなレベル差があり、最も重要な逃走の場面で一人だけ逃げて、怪我もなく生き延びたり。
それらの失敗すべては無意識に引き起こしてしまうものだった。子供のころから、何か自分には自分ではない特別な意思があり、それが、このような失敗を引き起こしているように思えた。無意識レベルの問題だ。でもどこかで、それが何かのきっかけで好転して、無敵の人間になるのではないかという、謎の全能感ももっていた。
数日前―幼馴染で回復魔法使い(ヒーラー)のカノンに頼まれた。
「お願い、私を信じて、あのパーティは、情に厚い、信頼と裏切りのバランスが絶妙なの」
頼まれたといっても、ほとんど自分を勇気づけるためだっただろう。18にもなるのに、冒険者として名もないどころか、貧乏神扱い。パーティ追放や首なら数えきれないほど、落ち込んでほとんど引きこもりがちになっていた自分を励ますためだっただろう。
だが“エラグ”は今も下手な失敗を繰り返していた。たかだかちょっと巨大なゴブリンの巣穴。アリの巣のような迷路にて、いまだ一匹も倒せず、依頼者の近隣の村から盗まれた宝石や、魔法道具、武器などを一つも取り返せずにいた。
「なにやってんのあんた!!」
そう叫ぶのは、ランナだ。褐色気味の肌、長くのびる左側の前髪。額の青色のカチューシャのような布状の髪留め。あでやかな顔つきと、色っぽい恵体。ほとんど見ないピンクと茶色のオッドアイ。肩までのロング。美しく優しげな眼もと。弓使い。
「次にゴブリンにあったら、こいつを餌にしよう」
そういうのは、片目に深い縦傷があり、片目しか使えないドルジ。レイピアを使い、攻めも守りもバランスがいい。オールバックで、前髪が少しだけ前に垂れている。キッチリとした顔立ちで嫌味がない。綺麗な黄色の瞳をしている。目は大きいが、ほそめたときの目つきはレイピアのようにするどい。
「うむう、うむうむ」
何を言っているかわからないのは、縦にも横にも巨大な体をもつガリンである。後ろで髪を結んで、側面はほどよく借り上げている。おどおどとしたしぐさと、下がり目下がり眉で、害のない印象がある。丸みを帯びているが大きくごつごつと下あごがある。ハンマー使い。
「ゴブリンがきた!!」
ドルジが叫んだ。皆、大きな洞穴から、小さな何もない洞穴に隠れた。ドルジがエラグの口を覆う。
2、3匹のゴブリンがさっていった。
「くそう、こんなに足手まといがいると、下級任務がこれほどハードモードになるなんてな」
ランナが続ける。
「本当、ダサくてやってらんなーい」
ギャルっぽいしぐさでのびをする。
「ふご、ふご、うむ」
同調するようにガリンがうなずく。そして視線は……エラグに向けられた。エラグは、耐えがたいストレスで汗が噴き出した。
ドルジ
「おい、汗臭い、やめろ、近寄るな」
ランナ
「ちょっとやめてよ!!こっちによこさないで!!」
ガリン
「ふごふご、うーむ」
最終的にガリンが抱き込む形になった。ガリンの筋肉質な体におしつぶされて、目を回すようになるエラグ。息苦しくもあり、酸欠気味になる。
そこで、こそこそとドルジとランナが話し合いをする。
「よし、いなくなった、今の内にに逃げよう」
「私が陽動のために“火花の矢”をはなつわ、ひときわ大きな音をたてるやつ」
「たのんだ」
そうして話が終わると二人は、エラグに皮肉まじりに言葉を投げかけた。
ドルジ
「ふん、こいつは、きっと囮にも使えないことだろう、さっさと担いで、この任務を破棄するぞ、そしてパーティ追放だ」
ランナ
「報酬はないけど、死ぬよりましね、本当噂にたがわぬヤツだったわ、これまで私たち、パーティ追放なんてしたことないのに、仲たがいはあったけどね」
そしてランナは、わざと体をはだけさせた。
「さっき、ちゃんと敵の注意をひけといったのに逃げ出して、こんないい女のありがたーい頼みも聞かずに、一生を終えるなんて、哀れな奴」
「うおおお!!おお!!」
突然よろよろと起き上がるエラグ、すると彼は、こう叫びながら、大きな通りの横穴に突進していった。
「俺は、大冒険者になるんだあああああああ!!」
その時彼の脳内には、今までの、自分自身と人生に対する怒りがあった。日銭稼ぎにも苦労する日々、冒険者以外の仕事をしたこともあったが、使えない使えないさんざんのいわれよう。もっとも人に迷惑をかけないとおもって選んだ冒険者であれ、この仕打ち、きっと自分にはどこにも居場所がないのだ。
ランナが焦った。
「ちょ、まじ!?」
ドルジも彼を捕まえようとしたが、その時ばかりはエラグも素早く、彼の襟をつかみそこねた。
「いつも通りの逃げ腰じゃないのかよ!!」
エラグは一人で突進し、その左からゴブリンが歩いてくるのをみた。目を凝らす、 そして気付いた。それは巨大な群れだったと。一人の老いたゴブリンの後ろを、筋骨隆々なゴブリンが列をなして追っている。
それに気づいたドルジたちも、彼に小さくよびかける。
「もどれ」
「もーどれー!!」
「ふご、ふごふご」
だが彼は彼らをみるとぼーっとみつめた。はだけるランナの体、そして、イケメンのドルジ、なんだかいらいらして匠な妄想が浮かんできて、一回転する、そして、叫んでゴーレムの群れに突進した。
「今こそ、好機!!!うおおおおお!!」
息苦しさで頭がおかしくなったのかそうしてつっこむと、群れをかきわけて突進していく、彼の構えた件をおそれたゴブリンたちは道をあける。
「おりゃあああ!!」
そして群れをつっきった、と思った瞬間、彼は最後尾から少し後ろに佇んでいた巨大なゴブリンをみて、それが殴りつけた瞬間。
《ゴンッ》
という鈍い音とともに気を失った。
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