第二章 九話「邪龍の中」

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in ???


???『…?外が…騒がしい…。また、誰か降りて来てしまったの…?』


太く長い丸太に注連縄しめなわが括り付けられて出来ている正方形の強力な結界の中、綺麗な紅と白の着物を着た美しい女性は、悲哀な感情の籠った瞳で天井を見上げた___


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in 異界【恋夜祭こいよまつリ】


澪菜「…もう一回…?入る…?…無理!」


祢遠「その願いも無理」


澪菜「ッ拒否権!人権は!?」


祢遠「異界じゃ適用されないでしょ」

拒否の言葉を言い続ける澪菜に、次々と澪菜の拒否を拒否する言葉が紡がれていく。


澪菜「だって私!死ぬ!祢遠は入ってないから分からないかもだけど!結構空気薄いんだからね!?」


祢遠「大丈夫、死にはしないから安心して入ってくれ」


澪菜「無理だって!」

半泣きで拒否を続ける澪菜。


邪龍は2人が話し込んでいる所に、龍となって現れた前足に瘴気を練り上げて【攻撃魔術】を使用する。


澪菜が持っていた護符の力で、結界が生成され、2人は、邪龍の攻撃には気付いていない


邪龍『ッおのれ!我をナメるのも大概にしろ!そんな結界ッ!』


次々と、【攻撃魔術】を乱用して、結界に亀裂が生まれていく。


祢遠「…もう時間ないから、拝殿にいる女を助けようとして巻き込まれたんだろう?」


澪菜「それはそうだけど!まさか喰われろなんて言われると思わないじゃん!」


祢遠は盛大に大きいため息を吐いて、護符による結界を修復して一気に邪龍の口元へ跳躍する。


邪龍『ッ何をする気だ!』


邪龍がいいタイミングで口を開けたことで、

邪龍の口内に澪菜を下ろす。

祢遠が澪菜から最後の1枚の護符を奪ったことで、邪龍の口は結界があって満足に閉じることが出来ない。


澪菜「ッ待って!待って!祢遠さん!?マジで!マジで無理なんだって!」


必死に祢遠の手首を掴みながら滑り落ちるのに抵抗を続ける。


祢遠「いい加減しつこいよ?さっさと入ってひと仕事してきてくれ」


澪菜「中に入って安全ならね!?」


澪菜はそれでも引き下がらない。

ちょうどその時、口内に乗せた澪菜の下の方、邪龍の喉の部分で瘴気が集まっていく。

【攻撃魔術】で、瘴気を練り上げられていく


祢遠は微かにこめかみに青筋を浮かせ、

澪菜の手首を引っ張って1度引き上げた。


澪菜「ッへ!?なに!?ちょ!」


そのまま祢遠は澪菜を俵担ぎにして、

空中で体を捻って貯蓄中の瘴気へ回し蹴りを食らわす。

見事溜まっていた瘴気の塊が粉砕される。


澪菜「ッ酔う…」


邪龍『ッくそ!』


そのまま再び邪龍の口内へ澪菜を投げた。

多少酔っていた澪菜は自分が邪龍の中へ投げ込まれたことに気づくのに時差があった。


澪菜「…え!?ちょ!祢遠ッ!ンギャアアア!!!」


祢遠「ふふ、水流滑りだとでも思えばいいよ」


邪龍の内部へと落ちていく澪菜の右手首には、

いつの間にか、

淡い碧色へきしょくに輝く腕輪がめられていた__



澪菜「ッ待って待って待って!!これどうなんの!?私消化されちゃうの!?死ぬ!?」


邪龍の胃袋の中で、強酸の胃液にジワジワと

溶かされていく恐怖に震えていた。


澪菜「…飲み込まれた食べ物達…みんなこんな恐怖と戦っていたのか…」


恐怖で目尻に涙を浮かべながら、胃袋へ降りるのを待つしか無かった____。


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in 夢の中


女性「…天日結姫あめのひむすびのひめ様、どうか、新しいわが子の誕生をお見守りください…」


???《…はい、大切に、元気に今世に産まれてくるよう、見守りましょう》


男性「…家内の病が…少しでも良い方向へ向かうよう、どうか宜しくお願いします…」


???《…私に出来ることは少ないかもしれませんが…今世との縁と、彼女の命の縁を守りましょう…》


女性「天日結様!長年想い続けてきた相手と良好な関係を築くことが出来ました!ありがとうございます!」


???《お力になれたようでなによりです、貴方の積み重ねてきた努力があってこそです…》

来る人来る人、天日結姫へ、「お参り」「お礼」といった、様々な願いを抱えて、

【天日結神社】の鳥居を潜って、自分たちの家へと帰っていく。


その様子を最後まで見守りながら、日結姫も拝殿へ入っていった。


参拝者と会話ができるわけではないが、

彼らの願い、お礼にも言葉を返したくて、このような日々を続けていた__





_____

in 異界?


空に大きくて闇のように黒い穴が開く、

その中から、澪菜は半気絶状態で真っ直ぐ落ちていく。



澪菜「ッッふべ!!」


うつ伏せに地面に叩きつけられ、

色んなものが出てきそうになったが必死に耐えた。


あんな空から落ちてきたのに、骨折どころか出血もない。


澪菜は、ムクムクと起き上がり、当たりを見渡す。


澪菜「…へ?え?ここ、邪龍の中…だよね?」


邪龍の中へ入り、胃袋に到達するのを覚悟していたのに、出てきた場所は青空の下、綺麗に掃除された大きい神社の境内の中だった。


澪菜は鳥居が見える位置まで行き、

どこの神社か見る。


澪菜「【天日結神社あめのひむすびじんじゃ】ッて、恋夜祭リに最初に来た神社??」


恋夜祭リに来た時に見た天日結神社を思い返す。


朽ちていた感じも、荒らされた跡も無かったが、寂れた雰囲気があった。

でも今澪菜が見ている天日結神社は、無人であれど、異界にいた時よりかは重い空気では無い。


澪菜は、とりあえず最初は拝殿へ向かおうと思って、拝殿の方へ足を向けた。


澪菜「…私何も説明されてないし、なにをしたらいいのかさえも分かってないけど…。動かないと、ダメなんだよね…?」


澪菜はさっぱり忘れているが、いつの間にか自分の身体は歩けるようになるまで回復していたのだ。


軽い足取りで拝殿まで向かい、あの

異臭がした扉を少しだけ開ける。


すると、漂う異臭も何も無く、部屋の中心には太く長い丸太に注連縄しめなわが括り付けられており、一種の結界のようなものになっていた。


その結界の中央には__


???『…あら?こんな所に生者がいらっしゃるなんて…。これも何かの縁なのかしら…?ふふ、悪いことは言いません、早くこの世から立ち去りなさい…』


柔らかく、見る人を安心させるような笑顔で、澪菜にそう言った。


魔術系の知識がない澪菜でも分かる、

今彼女を取り巻いている強力な結界は、

彼女のような温和で優しい雰囲気ではなく、逆にとてつもないほどに禍々しいモノだということ。


そして、そんなモノに、彼女は縛られているということを、直感的に感じた___


____続く。

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