第9話「離れていく平和」

澪菜(レイナ)「ッはぁ〜!!ご馳走様でした!」

祢遠(ネオン)「お粗末様でした」


リビングのテーブルを挟んで、それぞれ座椅子に座りながら祢遠の作った料理を完食した。

澪菜より先に食べ終わった祢遠はお風呂場で

カビキラーを使って罰を下した黒色の虫を魔術で

処理までして下さった。


澪菜「…あ、そうだ…これから向こうの部屋にカーテンとか張らないと行けないな〜」


祢遠「?向こうの部屋?」

澪菜「うん、この家2LDKだから、祢遠が滞在してる期間だけ明け渡す部屋」


祢遠「へぇ〜部屋1つ貰ってもいいの?」

澪菜「…別に私の部屋1つでも困ってないし、使い道も考えていなかったから別にいいよ」

祢遠「…家の提供否定的だったのに、ホントに分からない人間だね」


澪菜「だって一応、夜ご飯とかは作ってくれるんでしょ?家事してくれるなら部屋も別に渡していいかなーって」

祢遠「ブラックな家主じゃなくて良かったよ」


澪菜「でしょ?私は全面ホワイトな人間だから!」

澪菜は立ち上がって、収納ケースにしまっていた青いカーテンとラグマットを引っ張り出して、隣の部屋へ向かう。


祢遠「持つよ」

澪菜「ありがと……魔術は便利だね」

感動したが荷物を魔術で浮かせて運んでやがる…

別に文句は無いですけど…うらやまじい


澪菜はモップを持って部屋に入り、床を拭き掃除していく、窓も拭いておこうと思って拭こうとした時

澪菜「ッヒェッ…」

向かいのマンションのベランダに、結構太ったカラスが止まっていた。


真夜中で暗くてよく見えないが、澪菜の視線に気づいてかジッと見つめ返してきた。


澪菜(…なんか…めっちゃ不気味!)

そそくさとカーテンを取り付けて、シャッ!と閉じた。

祢遠「…?」

そんな澪菜の様子を少し後ろで訝しげに祢遠は見ていた。


澪菜「…え〜ッと……床で寝る?」

祢遠「…いや、僕はリビングのソファで寝るよ」


澪菜「…そ、そう?分かった…風邪引かないようにね」

祢遠「邪神は風邪引きません」

澪菜「強靭な肉体ですね」


不意に、澪菜のスマホが振動した。


澪菜「…?あ、友達からだ…ちょっと出てくる」

祢遠「はいはーい」


___________

in澪菜の部屋


澪菜「…もしもし?純華(スミカ)?どうしたの、こんな夜中に…」

『ごめんね〜、ちょっと澪菜にお願いがあって…』


澪菜「え〜何?外出するとか?なら暑いから日中は」

『違うよ〜!ていうか、親友の頼みなんだから暑いのくらい我慢してよ…まあ外出は外出だけど…』


澪菜「我慢したら熱中症とかになるでしょ?」

『それは体調管理が出来てないだけなんじゃ…』

澪菜「ごめん、それで頼みって?」


『そうそう!あのね、澪菜、【恋夜祭リ】って知ってる?』

澪菜「?こいよまつり?…なにそれ?地方の祭り?」


『違うよ〜、祭りじゃなくて、儀式みたいな感じらしいんだけど…なんかね〜、異界を観ることができる儀式?なんだとか…』


澪菜「…曖昧…てか異界?…ドユコト?」

『…あのね、私の通ってる学校の先輩が、1週間くらい前から行方が分からないって……』


澪菜「え!?行方不明?…まさか、行こうって言おうとしてるの?」

『…まぁ、行くって事なんだけど…私だけじゃなくて、先輩の友達…と、彼氏さん…と、私!』


澪菜「そ、そのメンツでどうして私?」

『…だって澪菜、都市伝説とか、心霊スポットとか一緒に行った時、必ずと言ってもいいくらいナニカが起こるじゃん?…私たちの考えだと、【神隠し】なんじゃないかって…』


澪菜「…ゥガア゙ア゙ア…」

『ごめん、嫌なこと思い出させちゃったのは謝る…でも、来て欲しいの…その儀式、「適正者」が居ないと、どうやっても成功しないみたいで……』


澪菜「…適正者?その条件が私に合ってるってこと?」

『それは分からない、適正者って言われてるだけで、条件とかはなにも記録が無くて…ッでも、その先輩、ずっと私の事助けてくれたのッ……それなのに私まだ何も…』


澪菜「ッ…落ち着いて、純華の言ってる先輩って、私も知ってる人?」

『…いや、澪菜は多分知らない…と思う』


澪菜「……」

『…ッごめん!不確定要素が嫌ほど多いのは分かってる…!それに、もし澪菜だけが1人で神隠しにあったらっていうリスクもある…。』


神隠し…

澪菜(…よりにもよって、1番私と因果のある

現象じゃん…多分、今のメンツだと…確かに私だけ飛ばされる可能性が……。)


澪菜「…ごめん純華…」

『…ッ』

_______

澪菜「…この件、今すぐには決められない…しばらく考える時間を貰ってもいい?」


『ッ本当に!?』

澪菜「…うん、私も怖いけど…純華には私も、昔から助けて貰っているからね…私に出来ることなら…力になりたいんだよ…。」


『…ッありがとう…澪菜…』

澪菜「ううん!大丈夫だから、少しでも、先輩が無事なことを祈ろう…」


『…ッうん、ありがとう…!』

澪菜「…じゃあね、夜遅いし…あ、ていうかその【恋夜祭リ】っていつなの?」


『時間は夜で…日にちは特に決まりは無いみたい』


澪菜「そういえば、なんで純華たちは【恋夜祭リ】の可能性を見出したの?」


『…先輩の彼氏が、先輩が居なくなる前日に、

「…恋夜祭リに行ってくる…お土産期待しててね」ってメッセージがあったらしい…。でも、そのメッセージ、彼氏さんが確認してから履歴のどこにも残ってないんだって…』


澪菜「…そうなんだ…履歴に残ってない…。それじゃ警察も、【恋夜祭リ】なんて不確定なモノ、信じてくれないか…」

『…うん、捜索は続いてるけど…。祭りの捜索はされてない…』


澪菜「…ッ分かった……ッ私…ッ行くよ……」

決意を込めた言葉だったのに、最後の方は掻き消えるような声になってしまった。

ダメだ、これでは純華が罪悪感を覚えてしまう…。


澪菜「…ッ行く!やる!純華の先輩!捜索手伝うよ」

『…本当にいいの?』

不安からなのか、喜びからなのか、声が震えている


澪菜「…うん…。さっきも言ったけど、私も純華にはお世話になってたし…今の話聞いて、行かなくて手遅れにでもなったりしたら、後悔しそうだから」


『…ッありがとうッ!本当にッありがとうッ…』

____________

ピッ…



澪菜「……言ってしまった」

確実な自分の決意のはずだ…。はずだった。

心の中に不安の渦が巻き始める。

出発するのはまた後日連絡するとのことで…。



真っ先に澪菜の頭に思い浮かぶのは、

祢遠の存在…。

もしかしたら、力に…頼りになるかもしれない…


それとも、祢遠を信仰して【力】とやらを授かるか……


澪菜「…いいや」

澪菜は頭を左右に振る。


澪菜(…祢遠には…頼らない…自分で決めて自分で巻き込まれに行くんだ…。他人には頼らない…)


澪菜「…【恋夜祭リ】…調べてみよう…。敵地は調査できるなら調査すべし!」


澪菜は深夜帯だということも気に停めずに、

チョコレートミニケーキの入った大袋を開けて、

紅茶を用意してパソコンを開く。


澪菜「…ッ調べる…調べて、助ける…!」


澪菜には分かる、何処なのか、自分が西にいるのか東にいるのか、そもそも地面に立っているのか浮いているのかも分からなくなる平衡感覚、


頼れる人も、言葉が通じる人もいない中で、必死に出口を探し続ける拭えない不安の渦…。


澪菜「…ッ一刻でも早く、出してあげないと…あんな世界はタダの生き地獄だ……」


カタカタとキーボードを打ち続け、お菓子を食べて調べ尽くす澪菜…。

そんな澪菜の様子を窺(ウカガ)うかのように、黒いカラスはリビングのベランダに止まっていた__


____________

in異界


ブーブーと、スマホのバイブ音が、着信を知らせる


店主「…あぁもしもし、ワシじゃが…」

『あー、店主〜?僕だよ〜』


店主「…詐欺か?」

『違う!僕だよ、祢遠!』


店主は軽く笑いながら言う。


店主「わーっておる、異界でも携帯とやらが繋がるようにしている相手はお主と他何人かくらいじゃ…で?要件はなんじゃ?」


『…あのね〜、店主が従魔化してるやつに、

【後追イ】が得意なヤツいたよね?アイツをちょっと、貸せる状態にしといてくれない?』


店主「お前が【アヤ】を頼るのか…?」


『頼るんじゃない、力を使うのが本当に面倒なだけ、【アヤ】ならいつどこで、どうなってるのかっていう状態を、「眼」で見て、「意識」で繋げる能力を持ってるじゃん、その力に頼りたいんだ…。相手が強ければ、僕単体の力だと歪められてしまう…。』


店主「…お前、ナニを相手にする気じゃ?」

祢遠は笑いながら言った。

『僕じゃない、僕の家主だよ。僕は何もせずにただソワソワしながら家主の帰りを待つだけの犬じゃないんだ…、貸してくれる?』


店主「分かった、【アヤ】を貸すのは了承する…だが、教えてくれ、ナニが相手なんだ?」


『…さぁね、今の僕に分かることはないよ、直接見て、会った訳じゃないし…【アヤ】の力があれば

万一なにかあったとしても対処出来る…【アヤ】が死んじゃったら、話は別だけどね…』



___________終


___次の次回からは二章に突撃なるかもです。

中途半端に終わってしまったので、数は少ないですがキャラクター紹介を次回へ回そうかと…。


___第一章終わりです、、、

これからは章ごとにタイトル付けようかなと思います!

最終話なので話長くなりましたが、これにてお暇します!





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