第61話 終わり終わり。あー、クソだった


「皮肉なものだと思わないかい?」



 まったく、酷い目に遭ったよ。

 まさかこんなに、縛りプレイの弊害が出るとは思わなかった。

 この状態でも全然イケると思ったんだけどなあ。

 やっぱり不足の事態は起こるもんだし、しゃーないと言やしゃーない。

 まあ、不足の事態ですら、今のボクならなんとかなると思ってたけど。

 

 舐めすぎとは思ってなかったさ。

 使えるエネルギーの九割九分九厘封印してたって、ボクに勝てる生命体はこの星に二十も居ない。

 ボクってぶっちぎりで最強だからさ。

 その辺のさじ加減がざっくりになっちゃうのは、ボクの至らない点というかなんというか。

 


「人として、彼は求めるべき事を求めた」



 ここから先の事を考えれば、やっぱりある程度の力を持つべきなんだろうか?

 でもなあ、今でもギリギリなんだよなあ。

 ボクが持ってるエネルギー量は、今のところ、高位の魔法使いをちょい上回るくらい。

 正直、これ以上は怪しまれる。

 増やせないんだから、出来る事にも限りがある。

 今回みたいな事が起こったら、ちょっと対処出来ないなあ。

 どうしよっかなあ、この先。

 困っちゃったよ、マジで。



「魔物に乗っ取られた友達のため、命懸けで戦う。なんて美しい友情物語だ」



 いやあ、これ以上の厄介事はないと信じたいけどもさあ。

 死ぬほどトラブル抱えやがるからなあ。

 まあ、ボクらが焚き付けてるんだけども。

 種火を見つけて、燃料を投下しまくって、風で扇ぎ続けて、周りにも引火するように手筈してるんよなあ。

 こりゃあ、ボクらが悪いか。

 でも、悪いからって、直せる訳でもないんだよなあ。


 いやあ、困った困った。



「まあ、クロノくん以外は殺そうとしてたけども。嗚呼、幸薄ちゃんは、もしかしたら封印しようたしてたかもね?」



 今後の事も、詰めて考える必要があるかもね。

 教主の奴に相談でもしようかなあ。

 ……あいつに相談したところで、マトモなアドバイスが返ってくるとは思えんが。



「で、一方お前は徹底的に怪物だった」



 一人くらい、使徒を用意してくれないだろうか?

 今回レベルで面倒くさい事はまず起こんないだろうけど、ダメなときはダメだし。

 安心できないのって、ストレスなんだよねえ。

 あ、でも、他の連中がクソ過ぎるわ。

 エセ神父が一番マシな人選なんだよなあ。

 他に使徒持ってこられたら、イレギュラー過ぎて必要ないわ。



「最期まで悪を貫いた。かくあるべしと、ボクですら思ったよ」



 それにしてもクロノくん、クラスメイト攻略しすぎだよなあ。

 天然のたらしの可能性は常々あったけど、もう三人目よ?

 どんだけ人のこと助けたら気が済むのさ?

 あー、英雄になれる人間って、大体こんな感じだよなあ。

 ある種のカリスマみたいなもんがあって、もう知らん内に仲間になってんの。

 ボクも経験あるから分かるんだよねぇ。付いていく気がなくても、ホントに気付けば、さ。

 この調子で行けば、いつかボクまで攻略されちゃう?

 そりゃあ、大問題だな。



「でも、お前は怪物としての勝負で負けた」



 はーあ、かったりぃ。

 多分この先も何万回も言うけど、こういうチマチマしたのって向いてないんよ。

 神父とか教主の仕事はある程度は見てきたし、真似事は出来るけどね。

 今回だって、当初思い描いてた絵図とは大分離れちゃった。

 ……まあ、『魔王』とか誰が予想できるかって感じなんだけども。



「人としての願いより、怪物としての能力が勝った。あの子はいい子なんだけど、その辺のことを分かってない」


「――――――」


「ボクたちは、他と外れた存在だ。馴れ合いは、そもそも向いてないってさ」



 はあーーーーー。

 こういう想定外の状況になったら、無理にでも介入するのが正解なのか?

 いや、でもそれはそれで身バレのリスクがある。

 しかも、今回はボクの想定を越える事件になってくれたおかげで、クロノくんは爆発的に成長した。

 ハイリスクハイリターンか、ローリスクローリターンか。

 普通に悩ましいんだよねぇ。

 ボクたちも別に急いでる訳じゃないから、後者の方が良いかもしれない。

 でも、ダラダラ長引かせると、妨害を受ける可能性がある。

 も、無能ばっかじゃないからねぇ。



「ねぇ、聞いてる? 『魔王』サマ?」


「AAAAAAAA……」



 さて、戻すか、話を。

 別に逸らしてた訳じゃないけどね。

 


「足蹴にしててごめんよ? でも、面倒くさいことしてくれたお前が悪いんだ」



 なんとも弱ってくれているね、この化け物。

 損傷がデカすぎて、ろくにエネルギーを扱えない状態らしい。

 傷も治ってないみたいだ。

 やっぱり、予想通りだ。

 こいつを殺すには、『神気』が一番手っ取り早いと思ってたんだよなあ。


 

「もう、思考する力もないか? 偉大な『魔王』サマともあろうものが、情けない」



 思い切り舐めた口を利いても、面白い返しはない。

 寂しいねぇ。

 四百年前からの付き合いなのにさ。

 ま、四百年くらい友好に空白があるけど。



「天晴れ、とは言えないよねー。彼はただ、怪物に堕ちただけなんだ。自分が奥底では忌み嫌っている、怪物に身を任せただけで、彼は何も解決出来なかった」


「―――――――」


「今回の件で、彼は自分のプライドを守れなかった。これは敗北だよ。お前は負けたけど、ちゃんと彼のプライドを折った。誇って言いんじゃない?」



 聞こえてないかもだけどね。

 ボクは、森羅万象の大概を見下してるけど、それはボクが上だからだ。

 ボクは、過大評価も過小評価もしたくない。

 認めるべきは、ちゃんと認めるさ。



「お前は、罰を与えたよ。神に最も近い人間の、鼻っ柱を叩き折った」


 

 これは、こいつにしか出来なかったよ。

 亜神に対して、あれほどの屈辱を与えた存在は、今後現れるとは思えない。

 きっとボクにも、出来ないだろう。



「安心して死ね。お前の二度目の生は、災厄であれたよ」



 そのまま、頭を踏み潰す。

 言いたいことは言ったし、もういいや。



「……さて、どうだったかな? 『魔王』はどうだった? 神父くん?」


「ふざけています。かつて、あんなのを倒したんですか、勇者一行は」



 靴が汚れた。

 地面で底を擦って、血を拭う。

 あー、きしょ。

 血と肉と脳漿がキモいんじゃなく、呪いの残滓みたいなのがキモい。

 出来ればもう触りたくないなあ。



「昔は、もうちょい強かったよ。最後の進化の後でも、最盛期の九割くらいかな?」


「……まだ上があるので?」


「うん。技は断然今のが強いけど、正直、素体が人間だったのが良くなかったね。どうしても、身体機能がいまいちになってた」



 そんな引いた顔すんなよ。

 九割なら、そんな変わらんやろ。

 


「昔は、もっとでかかった。力も強かったし、速かったね」


「その上で、あの能力ですか」


「厄介きわまりないよね」



 ホント、人間には勝てないよ、ありゃ。

 勇者一行は、全員人間辞めてたから、正直四百年前の戦いを人間VS魔物と置くのは無理があったな。

 あまりにも、隔絶しすぎてる。

 魔物なんて『魔王』の足手まといだったし、人間なんて勇者一行の足手まといだった。

 アレを倒すためには、人間を辞めなきゃならん。

 だから言ったんだ。アレは彼の誇りを折ったって。人間を辞めさせた時点で、勝負に勝って試合に負けたもんだったね。



「……それでも、一位殿なら勝てるのでしょう?」


「…………」


「難なく、容易く」


 

 否定はしないよ。

 仮に『魔王』が全盛期の身体能力で、今のレベルの技術を持っていたとしても、ボクは絶対に勝つ。

 だって、敗ける要素がないもん。

 でも、そんな萎えることわざわざ言わなくてもいいじゃん。

 上ばっかり見てると辛いだけって、なんで彼らは分からないんだろうね。

 


「はあ……小生もまだ、人間の範疇という事ですか……」


「残念がることないさ。君はもう、過剰なくらいの強さはある」



 そんな溜め息つかんでも。

 普通、ここまで来るのはいけないことなんだよ?

 人としての領分を越えるっていうことは、想像以上の代償が必要なのにさ。

 まあ、こればっかりは成ってみないと分かんないよなあ。

 そんな良いもんじゃないのに、皆こぞって『外れ』ようとするけど、良さしか見えていないんだろうね。



「クロノくんたちの記憶を操作しておいで。君に関する記憶は、持たれても困る」


「記憶操作はリスクが大きいのでは?」


「君の事を知られているリスクの方が大きいさ。それに、君なら上手くやるだろう?」



 やれやれと肩をすくめるエセ神父。

 遠ざかる背中を見て、思い付いた。



「そうだ。ほい。こいつあげる」


「……『魔王』の魔石。これは、どうすれば?」


「君の好きにしていいよー」

 


 少なくとも、誰よりも上手く扱うでしょ。

 好きに実験してほしいね。

 こいつに任せときゃ、ボクらのマイナスには多分ならん。



「残りの死体はどうするので?」


「あー、こっちはボクに任せて欲しい」



 怪訝そうな顔をするけど、別に変な理由じゃないよ。

 ただちょっと、今のままなら問題だし。

 この化け物が遺してったマイナスを、ある程度は清算しないといけない。

 ボクらの目的は、クロノくんを神にすることであって、完膚なきまでに叩き潰す事じゃないんだし。

 


「頑張ってたのは間違いないし。ご褒美くらいはあってもいいじゃん?」

 


 しょーがないなあ、クロノくんは。

 君の願いは反吐が出るくらいに甘いけど、その手助けくらいはしてあげよう。


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